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2017年1月9日月曜日
7階
学会の帰り、新幹線の中。ネットが使えず、手元にあるのはaura oneとPCだけ。となれば、本の話題を書いておきます。
なかなか、これはという本には巡り会わないもんだとぼやきつつも、それでも実は去年の末にはかなりいい線行った本と出会ってました。いや、良い線、ではなく、ひょっとして、この10年で読んだ最高の短編だったかもしれない。というのが「7階」。イタリアのブッツァーティという書きにくい名前の作者の手による作品。
何のことのない、ちょっとした病気で7階建てのごく普通の病院に入院した男性。ふと一階を見るとブラインドが下ろされている、というところからはじまります。たいした病気じゃないので、気楽に7階からの眺めを楽しんでたのですが、一つだけ、この病院の妙なルールを知らされます、それ自体は別にどうというものではないのですが、というお話。
絶品としか言いようがありません。ひんやりするような、ほとんど悪夢、現実との境がわからない、いつのまにか逃げることのできなくなっている恐怖。読み終えて、しばらく呆然として、気を取り直して、また読み返しました。これは地味に岩波文庫の「7人の使者・神を見た犬」、に入っています。表題にもならないというのが不思議でなりません。この作家が日本でそれほどもてはやされないのは、イタリアらしい、強いカトリック臭のせいと思え、表題作も、そういうトーンのために、信心のない私にはつまらない作品でした。
ブッツァーティの名前は、これを読む前に、長編「タタール人の砂漠」ではじめて知りました。これはどこか辺境の街で、国境の警備のために、街から離れて国境に設けられた山城に務めることになったドローゴ中尉の物語です。攻めてくるであろう、タタール人に備えるために、昼夜を問わず警備に当たる毎日のお話。
解説には、これは、何か価値あることが起きるかもしれないと待ち続ける、我々の人生そのもの、とあり、そういってしまえば、身もふたもないものですが、もっと純粋な、架空の街での物語です。語られる時間スケールがまるで対数で、くらくらします。いずれも脇巧という珍しい名前の訳者による優れた翻訳です。なかなかこういう作家には出会えません。
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