はるか昔に買って長らく読んだつもりでいた村上春樹の「カンガルー日和」、なんと、この有名な短編集をまだ読んでませんでした。実家の本棚を物色してたときにこれに気がついて、持ち帰ってスキャン。ピンキリではありますが、ダントツなのは、この「彼女の町と、彼女の緬羊」。彼がのちに希有の長編書きになっていった、その理由がこれを読むとよくわかります。冒頭は、札幌郊外の、沢山の羊が飼われていて、寂れつつある町で、町の広報担当として、日々、町内放送を続ける女性、その町を思い描く僕。
このイメージがまさに彼の奔放な想像力と魅力。こうして書き留めると、ひとつひとつの文は特に何でもない、だけどこうやってもう少し大きく切りだして眺めると、彼ならではの物語作りの才を強く感じます。この出発点と、もう一つ、この中にある、印象的な長めの短編、初めて羊男が登場する「図書館奇譚」とともに、たぶん白昼夢のように、羊をめぐる冒険は生まれたのか。
なにをいまさら半世紀ほど前の話を、といわれそうですが。