もうとどかない花の日よりもさびしかつた
つかれのやうに羞んで
古い折返しの向ふへかくれたひとよ
もうとどかない花の日のやうにいつまでもぼくは考えてゐる
これは、森川義信の「あるひとに」。わずか4行しかないこの詩、おそらく亡くなった友を悼むものでしょう。彼は、鮎川信夫に強い影響を与え、ライバルのような友達だったようです。
そして森川が戦死したとき、鮎川は有名な「死んだ男」で彼のことを、彼らしい強い言葉で追悼します。
埋葬の日は、言葉もなく
立ち会う者もなかった
憤激も、悲哀も、不平の柔弱な椅子もなかった
よく知らないのですが、鮎川はこの森川のような詩を書きたかったのかもしれない。森川の詩の底に流れている、ひんやりとした透明なイメージは、初期の鮎川に繰り返し現れてきます。こんな雪の日に、ときどき、森川の詩がひどく読みたくなることがあります。
「虚しい街」、あるいは「衢にて」から
翳に埋れ
影に支へられ
その階段はどこへ果ててゐるのか
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2016年1月10日日曜日
나윤선
この三文字で、ナ・ユンソンと読むらしい。パリで活躍している韓国人のジャズシンガー。エストニアのラジオ局の番組MMeditatsioonではじめて「Same girl」を聞いて、すぐにMP3をダウンロードしたものの、iTuneにはハングルしか書いてなくて読めず、私の中では謎のままでした。再び、同じ番組で流れてはじめてネットで調べて判明。
彼女の鳴らすカリンバ、ハンドオルゴールではじまるこの曲を、静かに、つぶやくように歌い上げる、彼女のせつなくやるせない声は、はっとするほどの美しさを持っています。彼女は27のときにフランス語も英語も知らないままパリに行き、音楽学校で学んだとのことです。言葉の通じない街での寂しさ、心許なさ、そしてそれに耐えた日々が、この曲を生んだのでしょう。
かつてうちのラボにいた女性が、次のステップをどうしようかというときに、他のお誘いを断って、私がけしかけたせいもあってか、フランスのラボに参加し、フランスの地で長い研究生活を過ごしたことがありました。ヨーロッパのラボではたぶんどこでもそうですが、英語も通じるとはいえ、やはり自国語ばかりです。辛かったとか、彼女の口からは一度も聞いたことないですが、楽な生活ではなかったはず。
それは、彼女の人生を大きく変えたことと思います。それが良かったのか。よく考えます。少なくとも、サイエンスを学べたことと、全く違う文化に若い時期にどっぷり浸れたことはかけがえのない財産になったはず、だけど、他の可能性と比べてどうなのか、それはいくら考えても答えは出ません。
ひとつだけ言えるのは、それはあのときだからできたこと、今は、とてもフランスに送る勇気はありません。世界は大きく変わってしまいました。ただでさえ、ポスドクを非正規雇用者と呼んだり、サイエンスに必要とされる競争力を得るためのプロセスが正しく認識されてない社会的風潮があります。加えて、欧米での治安のリスクの悪化は、若者が海外で勉強に行く気をひどくそぐものです。がんばってこいと、送り出す事もできなくなってしまいました。これからの日本のサイエンスはどうなるんだろう。それに、これはやはり、若者にとって不幸な状況。
5年経っての追記
このブログを終わるときに読み返していて、これを思い出し、検索したところ、Youtubeにありました。
https://www.youtube.com/watch?v=XhXCHYyHGLE
ハンドオルゴールと書いたもののよくわかりませんでしたが、手回しオルゴールのことか。だから、これだけ完璧に歌うことができるのか。相当な技量が必要と思いますが、そんなことは少しも感じさせず、ただただ、このパフォーマンスのあまりの美しさに思わず息を飲みます。
彼女の鳴らすカリンバ、ハンドオルゴールではじまるこの曲を、静かに、つぶやくように歌い上げる、彼女のせつなくやるせない声は、はっとするほどの美しさを持っています。彼女は27のときにフランス語も英語も知らないままパリに行き、音楽学校で学んだとのことです。言葉の通じない街での寂しさ、心許なさ、そしてそれに耐えた日々が、この曲を生んだのでしょう。
かつてうちのラボにいた女性が、次のステップをどうしようかというときに、他のお誘いを断って、私がけしかけたせいもあってか、フランスのラボに参加し、フランスの地で長い研究生活を過ごしたことがありました。ヨーロッパのラボではたぶんどこでもそうですが、英語も通じるとはいえ、やはり自国語ばかりです。辛かったとか、彼女の口からは一度も聞いたことないですが、楽な生活ではなかったはず。
それは、彼女の人生を大きく変えたことと思います。それが良かったのか。よく考えます。少なくとも、サイエンスを学べたことと、全く違う文化に若い時期にどっぷり浸れたことはかけがえのない財産になったはず、だけど、他の可能性と比べてどうなのか、それはいくら考えても答えは出ません。
ひとつだけ言えるのは、それはあのときだからできたこと、今は、とてもフランスに送る勇気はありません。世界は大きく変わってしまいました。ただでさえ、ポスドクを非正規雇用者と呼んだり、サイエンスに必要とされる競争力を得るためのプロセスが正しく認識されてない社会的風潮があります。加えて、欧米での治安のリスクの悪化は、若者が海外で勉強に行く気をひどくそぐものです。がんばってこいと、送り出す事もできなくなってしまいました。これからの日本のサイエンスはどうなるんだろう。それに、これはやはり、若者にとって不幸な状況。
5年経っての追記
このブログを終わるときに読み返していて、これを思い出し、検索したところ、Youtubeにありました。
https://www.youtube.com/watch?v=XhXCHYyHGLE
ハンドオルゴールと書いたもののよくわかりませんでしたが、手回しオルゴールのことか。だから、これだけ完璧に歌うことができるのか。相当な技量が必要と思いますが、そんなことは少しも感じさせず、ただただ、このパフォーマンスのあまりの美しさに思わず息を飲みます。
2016年1月8日金曜日
ガラスの製品
仕事柄、ガラスの製品を使うことが多く、細胞の培養のイメージングにはガラス底のお皿がかかせません。ただ、普通の培養ディッシュに比べてやたら高く、どのメーカーもほとんど同じ値段なので、けしからんと思ってましたが、ネットで探すとびっくりするくらい安いところが見つかりました。
Cellvisという、LAにある会社ですが、どうやら中国の工場から世界中に販売しているようです。お値段は、普通のディッシュだと単純に単価だけ比べると、1/2.5、お皿が4分割されたディッシュだと、1/5程度の値段と、思わず二度見しました。ガラスボトムディッシュに特化した会社なので、この値段にできてるのでしょう。サイトではしきりに製造過程の無塵さをアピールしてます。輸送費はかかりますが、代理店が入るよりはずっと安く買えます。早速買って試してみましたが、中国から来るので、国内と同じくらい早い。余りに早いせいか、注文後変更という融通は利きませんでしたが。このまま代理店がつかないことを願います。
使ってみると、なかなか水濡れが良く、MatTekや松浪のディッシュのように水を弾くことがありません。細胞の接着も良く、IWAKIのガラスボトムディッシュとよく似た感じです。かなりいい。Cellvisでは、他にガラスがそこについていない丸い穴の開いたディッシュ、つまり自分でカバーグラスをくっつけたい人用のや、逆にフタにもカバーガラスがついてて、マクロレンズなど作動距離の長いレンズで上から撮影するときに便利なようになっているものもあります。中国、恐るべし。
もう一つ、カバーガラスは大量に使う割に高い感じがしてますが、VWRという、何でも扱ってるアメリカの総合商社のようなところが自分のブランド名で出してるのは、枚数でなく、オンス単位で売ってて、たぶんいつも使ってる松浪の半分くらいのお値段。早速買ってみました。蛍光蛋白溶液を載せて、どれくらい一分子から光子を発生しているかを測定してみると、何の問題も無し。ただ、走査電顕で、ついでに、他のサンプルの間に載せて、表面をみると結構な違いがありました。
この倍率ではわかりにくいですが、拡大すると
何でしょう、これ。ピンセットでこすった部分だけ、この点がきれいに落ちてるので、なにかきれいにならんでいます。蛍光には影響ないようですが、余り観察には使わない方が良いかな。やはり松浪のはきれいです。
Cellvisという、LAにある会社ですが、どうやら中国の工場から世界中に販売しているようです。お値段は、普通のディッシュだと単純に単価だけ比べると、1/2.5、お皿が4分割されたディッシュだと、1/5程度の値段と、思わず二度見しました。ガラスボトムディッシュに特化した会社なので、この値段にできてるのでしょう。サイトではしきりに製造過程の無塵さをアピールしてます。輸送費はかかりますが、代理店が入るよりはずっと安く買えます。早速買って試してみましたが、中国から来るので、国内と同じくらい早い。余りに早いせいか、注文後変更という融通は利きませんでしたが。このまま代理店がつかないことを願います。
使ってみると、なかなか水濡れが良く、MatTekや松浪のディッシュのように水を弾くことがありません。細胞の接着も良く、IWAKIのガラスボトムディッシュとよく似た感じです。かなりいい。Cellvisでは、他にガラスがそこについていない丸い穴の開いたディッシュ、つまり自分でカバーグラスをくっつけたい人用のや、逆にフタにもカバーガラスがついてて、マクロレンズなど作動距離の長いレンズで上から撮影するときに便利なようになっているものもあります。中国、恐るべし。
もう一つ、カバーガラスは大量に使う割に高い感じがしてますが、VWRという、何でも扱ってるアメリカの総合商社のようなところが自分のブランド名で出してるのは、枚数でなく、オンス単位で売ってて、たぶんいつも使ってる松浪の半分くらいのお値段。早速買ってみました。蛍光蛋白溶液を載せて、どれくらい一分子から光子を発生しているかを測定してみると、何の問題も無し。ただ、走査電顕で、ついでに、他のサンプルの間に載せて、表面をみると結構な違いがありました。
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