この三文字で、ナ・ユンソンと読むらしい。パリで活躍している韓国人のジャズシンガー。エストニアのラジオ局の番組MMeditatsioonではじめて「Same girl」を聞いて、すぐにMP3をダウンロードしたものの、iTuneにはハングルしか書いてなくて読めず、私の中では謎のままでした。再び、同じ番組で流れてはじめてネットで調べて判明。
彼女の鳴らすカリンバ、ハンドオルゴールではじまるこの曲を、静かに、つぶやくように歌い上げる、彼女のせつなくやるせない声は、はっとするほどの美しさを持っています。彼女は27のときにフランス語も英語も知らないままパリに行き、音楽学校で学んだとのことです。言葉の通じない街での寂しさ、心許なさ、そしてそれに耐えた日々が、この曲を生んだのでしょう。
かつてうちのラボにいた女性が、次のステップをどうしようかというときに、他のお誘いを断って、私がけしかけたせいもあってか、フランスのラボに参加し、フランスの地で長い研究生活を過ごしたことがありました。ヨーロッパのラボではたぶんどこでもそうですが、英語も通じるとはいえ、やはり自国語ばかりです。辛かったとか、彼女の口からは一度も聞いたことないですが、楽な生活ではなかったはず。
それは、彼女の人生を大きく変えたことと思います。それが良かったのか。よく考えます。少なくとも、サイエンスを学べたことと、全く違う文化に若い時期にどっぷり浸れたことはかけがえのない財産になったはず、だけど、他の可能性と比べてどうなのか、それはいくら考えても答えは出ません。
ひとつだけ言えるのは、それはあのときだからできたこと、今は、とてもフランスに送る勇気はありません。世界は大きく変わってしまいました。ただでさえ、ポスドクを非正規雇用者と呼んだり、サイエンスに必要とされる競争力を得るためのプロセスが正しく認識されてない社会的風潮があります。加えて、欧米での治安のリスクの悪化は、若者が海外で勉強に行く気をひどくそぐものです。がんばってこいと、送り出す事もできなくなってしまいました。これからの日本のサイエンスはどうなるんだろう。それに、これはやはり、若者にとって不幸な状況。
5年経っての追記
このブログを終わるときに読み返していて、これを思い出し、検索したところ、Youtubeにありました。
https://www.youtube.com/watch?v=XhXCHYyHGLE
ハンドオルゴールと書いたもののよくわかりませんでしたが、手回しオルゴールのことか。だから、これだけ完璧に歌うことができるのか。相当な技量が必要と思いますが、そんなことは少しも感じさせず、ただただ、このパフォーマンスのあまりの美しさに思わず息を飲みます。