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2016年1月25日月曜日

ちまたにて

もうとどかない花の日よりもさびしかつた


つかれのやうに羞んで


古い折返しの向ふへかくれたひとよ


もうとどかない花の日のやうにいつまでもぼくは考えてゐる


これは、森川義信の「あるひとに」。わずか4行しかないこの詩、おそらく亡くなった友を悼むものでしょう。彼は、鮎川信夫に強い影響を与え、ライバルのような友達だったようです。

そして森川が戦死したとき、鮎川は有名な「死んだ男」で彼のことを、彼らしい強い言葉で追悼します。

埋葬の日は、言葉もなく
立ち会う者もなかった
憤激も、悲哀も、不平の柔弱な椅子もなかった


よく知らないのですが、鮎川はこの森川のような詩を書きたかったのかもしれない。森川の詩の底に流れている、ひんやりとした透明なイメージは、初期の鮎川に繰り返し現れてきます。こんな雪の日に、ときどき、森川の詩がひどく読みたくなることがあります。



「虚しい街」、あるいは「衢にて」から


翳に埋れ

影に支へられ

その階段はどこへ果ててゐるのか