もうとどかない花の日よりもさびしかつた
つかれのやうに羞んで
古い折返しの向ふへかくれたひとよ
もうとどかない花の日のやうにいつまでもぼくは考えてゐる
これは、森川義信の「あるひとに」。わずか4行しかないこの詩、おそらく亡くなった友を悼むものでしょう。彼は、鮎川信夫に強い影響を与え、ライバルのような友達だったようです。
そして森川が戦死したとき、鮎川は有名な「死んだ男」で彼のことを、彼らしい強い言葉で追悼します。
埋葬の日は、言葉もなく
立ち会う者もなかった
憤激も、悲哀も、不平の柔弱な椅子もなかった
よく知らないのですが、鮎川はこの森川のような詩を書きたかったのかもしれない。森川の詩の底に流れている、ひんやりとした透明なイメージは、初期の鮎川に繰り返し現れてきます。こんな雪の日に、ときどき、森川の詩がひどく読みたくなることがあります。
「虚しい街」、あるいは「衢にて」から
翳に埋れ
影に支へられ
その階段はどこへ果ててゐるのか