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2016年7月15日金曜日

増殖欠損ウイルスから増えるウイルスができた

遺伝子組み換え生物を作ることは分子生物学で良く使う手法で、感染させるために組み替えウイルスも普通に使います。iPSの作成ではレトロウイルスが使われて、これはウイルスの高い感染能力を利用したものです。が、もちろん、こういうウイルスはツールとして使ってるだけなので、細胞に感染して外来遺伝子注入以外の機能は無用で、というより、あると困る場合が多いので、ウイルス本来の機能は極力少なくして使います。

増殖欠損はその大事な特徴で、そうでないと、組み替え体がやたらあちこちに感染して、組み込んだ別の遺伝子がそこで発現しかねないので危険です。それで組み替え実験に用いるウイルスはほとんどが増殖欠損で、特定の細胞や、特定のDNAを混ぜたときにだけ、ウイルスを増やせるようになっています。

ところが、今日出版されたMolecular Cellular Biologyという、米国微生物学会の雑誌で、ある論文が撤回されたのですが、またデータねつ造かと思って週刊誌的感覚で読んでみたら、全然違っていて、増殖できないはずの組み替えアデノウイルスが増殖できるようになった結果、おかしな結果が得られていた、ということでした。

撤回とはいえ、これを見つけたからには優れた研究者である事はわかりますが、問題は、なぜ増殖欠損ウイルスが増えてしまったか。著者らは、これは増殖欠損ウイルスを増やすために用いる専用細胞に発現する増殖欠損を補填する因子が、ウイルスに取り込まれてしまったためだろうと考えています。確かにそうとしか思えません。

そんなことが実際に起こりえるのか??ウイルスゲノムが細胞ゲノムに入り込むように、ウイルスゲノムの増殖の過程で、細胞のゲノムの一部がトランスポゾンなどで切り取られてウイルスの中に入り込むことはあるにしても、それがたまたまそのウイルスに必要な因子だったのか?

こんなことが起きるのなら、組換え実験の規制も考え直す必要があるし、そもそも、そんな危なくて不安定なツール、使えないことになってしまいます。遺伝子治療とも関わります。ほんとかということも含めて、これは学会をあげて検証が必要。