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2017年2月3日金曜日

低地

この本が、普通に、本屋の書棚に並んでいることが、まず信じられない。ラヒリ、彼女の小説は、「停電の夜に」が有名です。だけど、インドから移民したアメリカ人、東海岸に住む若い作家、美人だし、いかにもという印象で、偏見が強くて、彼女の本は一冊も読んだことはありません。手にしたことは10回くらいはありますが。ただ、この「低地」は、ぱっと見、そんなところがなく、例によって適当にアマゾンで買った本でしたが、これほどの作品とは・・ 

よく、出版社の宣伝帯に、渾身の、という言葉が並びますが、これはまさに、彼女の、渾身の、まさに魂を込めた作品。ここまで書けるものかと思うほどの、重たい、とても重い、救いのない世界。読んでいて思わず空を見上げてしまうほど。

カルカッタの、葦の生い茂る湿地につながる家、ロードアイランドの港町と大学、交互に入れ替わる景色に、次第に、人と人とのむずびつきの難しさ、厳しさ、そして、癒えることのありえない、心の傷がのしかかります。

どうしてもこの世界のことを書かなければならなかった。優れた作家には、必ずそういう一冊があります。彼女はこれまで書き手として培ってきたすべてのものを費やして、この哀しい世界を描ききりました。哀しい世界、でも実はこれは、我々の生きている世界のこと。

それでいて、不思議なくらいこの作品には全編を通してカタルシスがあります。なぜだかわからない。もしかするとそれは、この世界を認識する格闘だから?

年末年始以降、あれやこれやで再び眠れぬ夜に陥っている中、雪に埋もれた福島の街並みを眺めながら、この世界のことを思います。