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2017年4月9日日曜日

DFP

学生時代、タンパク分解酵素の研究が最初の研究テーマだったので、その阻害剤のDFPという試薬を使うことになりしばらく実験してました。ある日、ベンチに顔を出した教授にどういう実験してるのときかれて、DFPですというと、ぞっとするような話を聞かされました。彼の友達(だったのか、その研究室員だったのか)がDFPを使って実験をしていたところ、その人が周りの人に、なんでこんなに暗いところにいるの、灯りつけようやと言い出したとか。昼間、普通に明るい研究室の中で。DFPを吸ってしまったらしく、視神経がやられてたという話でした。神経伝達の際に出るアセチルコリンの再利用を行う酵素アセチルコリンエステラーゼ(血液検査項目にも出てきます)と、当時やってたタンパク分解酵素は親戚で、DFPで反応できなくなります。タンパク分解酵素が少々つぶれてもあまり即死になることはないでしょうが、アセチルコリンエステラーゼは神経伝達が止まるのでやばい。

今なら研究室でそんなことしてたら大騒ぎです。揮発性の高い試薬なので、もちろん当時もドラフトチャンバーの中でしかその試薬は使いませんでしたが、そこまで危ないとは知らなかった。水に出会うとすぐに壊れるので、体内に入ったらすぐにつぶれるのかと思ってましたが、ぞっとしました。、もっとも、それがほんとの話なのか、あるいは教授が気をつけるようにと少々脚色して聞かせてくれたのか、いまとなってはわかりませんが。このDFPの構造を真ん中で2つに分けたら、サリンになります。サリンの方が小さい分、体内への浸透性も高いでしょう。

サリンを使ったオウム真理教のテロのとき、そういうこともあってニュースを聞いて、その危険性は肌身に感じました。実験室で使う量は、ごく微量、実際に加えるのはほんの数マイクロリットルですが、封印されてたガラスバイアルには1ccくらい入っています。普通のベンチで開けるのはもちろん厳禁。防毒マスクが必須です。そんなのが床の上にこぼれてたら、息を止めて全力で逃げ出さないといけません。

シリアの、たぶんサリンと言われている化学兵器の攻撃、それを浴びた子どもたちの映像をみて、そんな話を思い出しました。だから水をかけるのは正しい、でも、作用はほとんど数分で完了しています。失われた神経は元に戻りません。正視できるものではありませんでした。

これを受けたトランプ大統領の派手なミサイルの発射。支持率が低迷しているので、たぶん、やるだろうと思いましたが、ただ、プーチンと仲良しだったのはどうなったのだろう。そもそも、ロシアとシリアの関係、あまりわかりやすいものではありません。ロシアの後ろ盾さえなければ、現政権の暴挙は、あるいは存続自体もできないのではと、素人は思いますが。サリンへのお返しだけだと言っても、それで亡くなった兵士もいます。家族は許さないし。反アサド政権派の支援というより他国が自国に侵略したとみます。オバマさんが攻撃を行わなかったのはそのあとでアフガン、ベトナム化になるのを懸念してのことでした。他国に攻撃するのは、とても難しい。

ロシアが反政府派の拠点を攻撃したとのこと。やむことのない報復の繰り返しです。