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2017年12月9日土曜日

もしも私が羊歯だったら

土曜の午後、アスベニスの曲がKlassikaradioから流れていて、ふと、ずっと昔、山下和仁、その当時、山下少年と呼ばれていた長崎の16歳が、パリ国際ギターコンクールで演奏したときのことを思い出しました。もしも私が羊歯だったら、という曲が課題曲でした。このコンクール、いつのまにかなくなってしまいましたが、その当時は絶対的で、ピアノにおけるショパンコンクールのようなものでした。この曲、おそらくフランスに長く伝わるフォークロアで、その旋律をフェルナンド・ソルが変奏曲にしたものです。

ギターを弾いてたので楽譜は持ってましたが、ちょっと見るとそれほど難しそうにも見えません。ところが、弾いてみるとこんなの無理という展開で、その上、音だけ拾うとちっとも面白くなく、まともに弾いてみようと思ったこともありませんでした。なんでこんなのが課題曲になるのかと思ったものですが、それだけにこのときの山下少年の演奏は、衝撃的でした。どうやって弾いてるのか、いろいろと想像を膨らませていたのを思い出します。でも、ネットで、いまなら、誰かの演奏があっさり見つかります。なるほどこう弾くのかと思いました。でも、記憶の中での彼の演奏にはかないません。

伝承曲なので、歌詞があり、どなたかがサイトに載せてくれてましたが、この奇妙な題名の訳がわかりました。羊飼いの娘に思いを寄せる少年の唄でした。彼女の足下に咲く羊歯になりたい、という何とも純朴な唄。

残念ながら、このときの山下少年の演奏はネットにころがってません。この曲を演奏する彼のCDは買えますが、でもそれはスタジオ録音。大体、そういうのを買うとがっかりするので、買いません。そのときの彼の高ぶる気持ちと緊張感、固唾をのんでみている聴衆の空気と、会場の湿度と温度、そしてギターのその場でしか得られない響き、そこでしかできない演奏というのがあるものです。