今年の三島賞に決まった蓮實重彦氏の会見が秀逸。かつて東大総長として入学式で、ほとんど字幕ルビ無しでは理解できないような難解な祝辞をおくった気骨の文学者らしい。
受賞を聞いてどのような感想を持ったかと聞かれて、「個人的なことなので申しあげません」。審査員の町田庸のコメントに対して感想はと聞かれ、「ありません」。記者団に他に質問はと司会がふると「ないことを期待します」。受賞について喜んでいらっしゃるんでしょうかと聞くと、「まったくよろこんでおりません。はた迷惑なことだと思っています」。この上ない。
その理由が説明されたので、ならば今の文化の状況にものたりなさをかんじているのかと聞かれて「いえ、それはありません」。それでも聞き出す司会がかろうじて引き出した、「『今晩だけはジャズのレコードを大きくかけるのはやめてくれ』と両親に言われたという話があり、その話を読んだときに、私はその方に対するおおいな羨望(せんぼう)を抱きまして」という、彼らしいコメントに、ではいつ頃書きたいと思ったのかと聞かれると、「書きたいなとは一度も思っておりません」。
かつて、ここまでの受賞コメントを述べた人はいないような気がする。奇妙な格好をしてみた人はいたが。それにしても、黒田夏子のabさんごの選考にも彼が関わったとは知らなかった。あれはすごい作品。いまだに新鮮で、たまに、その冒頭の文章が思い浮かびます。
蓮實重彦はかつてぱらぱらとめくっただけで、まともに読んだこともありません。ましてや小説を書いてるとも知らなかった。読んでみなければ。でも調べると、まだ出てなくてがっかり。ともかく、この人は、学問することはかっこいいことだと、80才の今でも全身で伝えている。最高だ。