モントリオールでポスドクをしていた頃、ボスが、すごい発見があった、これで資源を持たない日本は助かるぞ、ものすごいことだ、と興奮して話してくれたことがありました。ユタ大学で、当時は滅多になかった大学としての公式記者会見で、フライシュマンとポンス教授が、電気泳動で核融合ができた、ということを発表しました。核融合は人類の夢、太陽よりも高い温度で、とんでもない高圧下でのみ、重水素をヘリウムに変換できる、それを実現するために国際協力機関で膨大な費用を投じて長期にわたり開発を進めてきた究極のエネルギー開発。
そんなものが、いっては悪いですが、田舎の大学で(実は優れた大学です、ほんと)しかも普通の化学の実験室で、しかも学生がやるような電気泳動で実現できるわけないだろうと、専門家は即断し、猛烈な追及を受け、世界中で追試が行われてもほぼ再現できず、えせ科学とされてきました。ユタ大学は当初から熱心で、cold fusionの研究所まで作って支援を続けてましたが、2年のうちに閉鎖となりました。二人は耐えきれず、ヨーロッパに逃げ、TOYOTA等の財団の支援で研究を続けてましたが、フライシュマンだけが研究を続けて論文を発表し続けてましたが12年に亡くなったそうです。Wikiのこの記事を読むと、こんんなことになってたんだと、興味津々でした。
しかし、核融合に伴うはずの証拠が余りにも弱く、理論がなく、再現性も乏しい中、ただ全くできないわけではなく、入れたよりも余剰の熱が発生するという現象はどうも確かに起きることがあるようで、ほとんど一流紙には載りませんが、その可能性にかけて研究を継続してきた研究者たちがいるとのことを、ネットの記事で読みました。
以前、三菱関連会社が核廃棄物を、元素を変換して処理する技術を開発しているということは読んだことがありますが、原子を変換するとは核分裂か核融合しかないわけで、核融合??、それも小さなプラントで??という疑問符だらけでした。どうやら、他にもいくつもベンチャー企業が手がけていて、low energy nuclear reactions、略してLENRsと呼ばれているようです。ECATという会社のサイトによると、ごくわずかな燃料を使って、20cmx5cmという小さな反応コアでKWレベルのエネルギーを何ヶ月も安定して産生する、とか。簡単な装置のようで、簡易型でしょうが、核融合キット!すら売られてます。250ドル、なんと。
http://www.lookingforheat.com/shop/diy-kits/lenr-test-kit-mk1-model-t/
です。
日本では、これを凝縮体系核反応とよんでいるようですが、もともとユタ大学で用いられた電気分解を用いる方法のほかに、大阪大学の荒田吉明という人が高圧の重水素をパラジウムの中に吹き込むことでと、ヘリウムができて余剰熱が発生する、という現象を発見し、「エネルギーを使わずに酸化ジルコニウム・パラジウム合金の格子状超微細金属粒子内に重水素ガスを吹き込むことだけで、大気中の10万倍のヘリウムと30kJの熱が検出された」と日経新聞は報じています。公開実験も行っており、この方法の再現性は高いようです。ただ、ECATが言ってるレベルの再現性ある安定なエネルギー産生には、まだどこも到達していないらしい。多くのベンチャーは、立ち上げの期待に添って成果を上げているようにはあんまり見えません。
核融合で出てくるはずの中性子は、ユタ大学からの発表と一貫して、殆ど出ないわけですが、この現象は核融合ではなく元素変換であるということを北大の研究者は報告しており、それで説明がつくのかどうか。私がネットで見た記事は東北大の寄付講座に荒田法によりエネルギー産生を研究する企業がはいったというものでした。三菱系列だったかな。
何でも良いので、入れた以上の熱が出てくるのならば、それは確かに革命的になる可能性はあります。ただ、いずれも小規模、ベンチトップサイズのようで、実際に使えるエネルギー規模になりえるものなのか。そもそも、入れたエネルギー以上という、その計算が正しいのかも批判されてもいるようです。 理論がなく、研究成果がまともな雑誌に載らないことがなによりも辛いことでしょう。
少なくとも、失意のうちになくなったポンズ、フライシュマン教授の夢は、まだ途絶えていないことは確か。なにかはありそう。ほんものであってほしいものです。