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2016年10月14日金曜日

激しい雨が降る

まだ興奮冷めやらぬ中、Dylan氏は昨夜のコンサートで一言も触れなかったとか。さっすが。かつてサルトルが受賞の打診を受けたとき、断ったという有名な話がありますが、それについでくらいcool。まさか断ったりして?どちらでもいい、彼らしく決めてくれれば。単純なこの喜びは、自分でなぜ?と思うくらい、ほんとうれしい。

Dylan Thomasはてっきり受賞してたのかと思ってましたが、違ったようです。また、昨日、ソールベロー以来かと書きましたが、トニー・モリスンという黒人女流作家がそのあとで受けてたのですね、この人全然知らない。(←嘘、本が実家の書棚にありました。若い頃読んで、ちっとも残ってないようです)

60年代、後半に入って急に難解な詩を書き出したDylanに、「Dylanologist」たちが出てきて、彼の詩の研究と解説を始めたことがあります。迷惑げなBobDylanは、そんなのやらないで、トルストイとかやればいいのにと、ドキュメンタリー版のBringing it all back homeのなかで語ってた、そんな記憶があります。

前も書きましたが、「激しい雨が降る」は、長らくどこかのフォークロアのスタイルかと思ってましたが、Dylan Thomasの「ミルクの森の中で」、彼の有名な戯曲というのか、詩劇というのか、あきらかにこれが元歌。ディラン・トマス全集を古本屋で見つけて喜んで買って、読んでたときに、気がつきました。詩劇の中で歌われる詩です。多くの彼の作品を訳してくれた松浦直巳氏の訳では
「トム・キャットさん
どんな海を見たの
遠い遠い昔の
あなたの船乗り時代に
あなたがわたしの船長であったころ
のたうつ緑の海原に
どんな海獣がいたの

ほんとのことをいうと
あざらしのように海は吠え
波は蒼くまた緑
海には鰻に
人魚い鯨が一杯

どんな海を渡ったの
ねえ お年寄りの捕鯨者さん
ウェールズからシスコまで
ふっくらふくらんだ波に乗り
あなたがわたしの甲板長であったころ

ここにいるほど確かなことは
かわいいおまえがトムキャットの女だったこと
海に不慣れのローズィよ
おまえ 気楽な恋人よ
わたしのとってもやさしい
私のほんとの恋人と
海は豆のように緑で
アザラシの吠える月の夜は
海に白鳥が浮かんでいたよ
・・・ 」

延々と続きます。激しい雨が降る、ではこれを、全然違う場面に置き換えて、ひとつの様式として使ってます。寺山修司にちょっと似たところがあるのかな。そういえば、風に吹かれては盗作だという話がずっと昔ありました。どこかの民謡のメロディののせたものかもしれない。でもパクるのは芸術の基本。

詩そのものとしては、DylanThomasにかなうものではないですが、彼はそれを他の方法で表現しました。きっともっと若い頃、ものすごく読んでいたに違いない。すっかり彼自身になってます。たとえばDylan Thomasはこうやって、言葉だけで劇場を作りますが、

I see the boys of summer in their ruin
Lay the gold tithings barren,
Setting no store by harvest, freeze the soils;
と歌い出して、

I see you boys of summer in your ruin.
Man in his maggot's barren.
And boys are full and foreign in the pouch.
I am the man your father was.
We are the sons of flint and pitch.
0  see the poles are kissing as they cross.

と終わるように。神々しいまでの圧倒的な言葉の劇場を。だけど、もう一人のDylanはそのように自分の声で表現できます。希有の存在。Royal Albert HalllでLove Minus zeroをうたう彼のテープを見てると、神がかって見えます。それにしても、こうしてDylanThomasの詩を書いてみると、言葉の選択が強い影響を受けてるのがよくわかります。

そんな意味で、まさに吟遊詩人、Minstrel Boy。もっとも、73年以降の彼にはあまり心動かされるものがなくなってしまって、もうでてくるなとすら思って、ボストンに住んでいた頃、近くの大学でコンサートがあったときには行きもしませんでしたが、心臓発作から復活した後はさらにすごさをましたものを感じました。Time out of mind、何十年ぶりの衝撃でした。ノーベル賞委員会を動かしたのはこの後の活動かもしれない。何しろ、クリスマスソング集を出すとは思いも寄らなかったし、そのできばえには、目眩がしました。詩は73年以降もひたすら伸び続けたのかもしれない。

でもやはり最高峰は、65年前後、ロックを手にした直後から、バングラデッシュまででしょう。Fourth time aroundなんて、ありえない歌。はじめて、中学校2年の時に聞いて以来、これがなんなのか、永遠の謎。


付記 と書きましたが、どうやら激しい雨が降るの本歌は、ロード・ランダルという、やはり伝承歌のことだとか。独教大の先生がそういわれてるという話がどこかに書かれてました。なるほど。トマスの方はそれに乗せたのかな。確かに、いかにもそんな感じですね。BobDylanは両方ともよく知っててあの作品ができたのかな。