そんなわけで、ディラン・トマスの「ミルクの森で」を読み返してると、ふと気がついたことがあります。このまえもかいたもう一人のDylanの2009年のクリスマスソング集、誰もがひっくり返ったに違いないこのアルバムで一番印象的な曲、must be a Santa、この中で、なにより耳に残るのは、リフレインのなんだか規則性がわからない繰り返し。
こんな野放図な繰り返しが、どこからこんなのが出てくるのか、これがいつも彼の謎で、魅力なのですが、このくりかえしは、「ミルクの森で」の中の、引退したキャット船長の夢の中で、溺死者1から5が次々に現れて歌うフレーズのリズムとよく似てます。
と書くと訳わからないですが。彼の書いたこの最高の戯曲は、「小さな町の月のない夜」に、町の人々が見る夢を描いた詩劇です。最初に登場してくるのが、隠退した盲目のキャット船長で、「とびきり上等で小ぎれいな船室の自分の寝台に眠って、夢を見ています」。
そのゆめのなかに、長い船長の人生の中で、おぼれ死んでしまった船員たちが次々に現れて、船長とにぎやかに歌います。
こんな感じ。溺死者1から5が交互に登場しての台詞、
どんなぐあいかね、陸の、娑婆の方は?
ラム酒やアオサ入りパンはあるかい
胸のふっくらしたコマドリちゃんは?
手風琴は?
エベネゼルの鐘は?
殴り合いとタマネギは?
それから、雀と雛菊は?
ジャム壺の中のトゲ魚は?
バターミルクとホイペット犬は?
ねんねんようの赤ちゃんは?
網につるした目障りな洗濯物は?
居心地の良い居酒屋の、あのなつかしい女どもは?
・・・・
延々と続く、この小気味よい歌、このリズム、まさに must be a Santa。彼の天才が一番発揮された作品かもしれない。
先に書いた、激しい雨が降る、の本歌だと書いた部分もキャット船長が
「太陽と、彼がまだ蒼い輝く目をして、ずっと昔、快走船を走らせた海に向かってパッと開け放たれた窓辺で、うとうとしながら航海の夢を見て」
いたときに、その中に現れた、かつて彼が手を出した早熟な娘、ローズィの歌の一節でした。
そもそも、Bob Dylanの特徴的な早口の畳語は、まさにこの「ミルクの森」ととてもよく似てます。意識しているとは思えないですが、50年を隔てて、Dylan ThomasはBob Dylanとなって、歌になり姿を現したのかもしれません。