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2018年5月26日土曜日

幻の第二巻 国文社

書店でよく名前を見る出版社でも、行ってみると、窓の外にエアコンが少し傾いてホースがたれてて、廊下にはロッカーがおいてあるような、古いビルの一室だったりすることがあります。出版という仕事はとても難しいようで、今の時代、とくにまた読者層が限られる本に絞っているほど、困難になることは想像に難くないところ。

たまに、出版予定だった全集が完成しないままになったというのを目にしますが、ないものは余計知りたくなります。先に書いたディラン・トマス全集の第二巻もそのひとつ。出版されませんでした。1巻はもちろん詩集で、3巻は評論(+α)、4巻は戯曲(というより脚本)、とすると、この幻の2巻は小説でしょうか。書簡か、日記?そういえば、確か、ボストンの古本屋で何気なくなったペーパーバック、最初に手にして驚愕した、「仔犬のような芸術家の肖像」や「ミルクの森で」が全集にはありません。なぜにこの巻だけ刊行できなかったのでしょう?

この全集は国文社という出版社が出してます。この会社のウィキペディアに載ってる主な出版目録というのがまたすごい。

ポリロゴス叢書
アウロラ叢書
アルベール・ベガン著作集

等々、ちっとも知らない。。。

名前に馴染みがあるのは、ディラントマス以外ではリルケくらい。それも書簡集。これで経営が成り立つのかと、人ごとながら畏怖の念すら感じます。ウィキペディアの補注を見ると、この経営者の息子がタレントの高田文夫だとか。ものすごいギャップだけど、なんとなく、そうか、という気もします。

だけど、会社のサイトに行くと、さすがにもっと一杯出してて、なんと、牧野虚太郎詩集(!)や森川義信詩集、さらには再版された一連の荒地詩集をだしてくれたところでした。同じ出版社だったのか。。。これらの詩集を買った日のことは良く覚えてます。こういうのを出版できる日本文化のすごさを感じたものです。即買いして、多少は売り上げに貢献したかな。それにしてもウィキペディアのこの記事、省略しすぎ。あんまりなので直してあげる?

目録の中には「日本海軍艦艇公式図面集」や「ルネサンスの活字本」などがあります。相当、不思議な出版社。共通点はまず売れないだろうということ。外国文学が多いようですが、どれも相当マイナー。「テーベの埋葬」というのがありますが、これはソフォクレスのアンティゴネーの変奏で、人間の法と神の法の相克を意味し、ジョージ・ブッシュによるイラク侵攻と重なってる、とのこと。う~ん、これは一度行ってみなければ。

経営的な理由で、第2巻は出せなかったのかなとも思ってましたが、権利の問題かもしれません。ともかくそんなのより、誰が翻訳をしたのでしょう。あとで、どこかから出されたのかな。翻訳者にとってはもちろんですが、社会にとっても貴重な財産のはず。彼の作品の翻訳は想像を絶する作業のはず。ただそれだけに日本語に移し替える喜びは格別なはず。

国文社の編集者だった人が、その辺の話を書いてくれたら、速攻で買います。輝かしい言葉の裏には、見慣れた日常の営みがあるわけで、下世話な話であっても、どういう人たちがこの作品を支えてきたのか、知りたい。