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2017年12月9日土曜日

もしも私が羊歯だったら

土曜の午後、アスベニスの曲がKlassikaradioから流れていて、ふと、ずっと昔、山下和仁、その当時、山下少年と呼ばれていた長崎の16歳が、パリ国際ギターコンクールで演奏したときのことを思い出しました。もしも私が羊歯だったら、という曲が課題曲でした。このコンクール、いつのまにかなくなってしまいましたが、その当時は絶対的で、ピアノにおけるショパンコンクールのようなものでした。この曲、おそらくフランスに長く伝わるフォークロアで、その旋律をフェルナンド・ソルが変奏曲にしたものです。

ギターを弾いてたので楽譜は持ってましたが、ちょっと見るとそれほど難しそうにも見えません。ところが、弾いてみるとこんなの無理という展開で、その上、音だけ拾うとちっとも面白くなく、まともに弾いてみようと思ったこともありませんでした。なんでこんなのが課題曲になるのかと思ったものですが、それだけにこのときの山下少年の演奏は、衝撃的でした。どうやって弾いてるのか、いろいろと想像を膨らませていたのを思い出します。でも、ネットで、いまなら、誰かの演奏があっさり見つかります。なるほどこう弾くのかと思いました。でも、記憶の中での彼の演奏にはかないません。

伝承曲なので、歌詞があり、どなたかがサイトに載せてくれてましたが、この奇妙な題名の訳がわかりました。羊飼いの娘に思いを寄せる少年の唄でした。彼女の足下に咲く羊歯になりたい、という何とも純朴な唄。

残念ながら、このときの山下少年の演奏はネットにころがってません。この曲を演奏する彼のCDは買えますが、でもそれはスタジオ録音。大体、そういうのを買うとがっかりするので、買いません。そのときの彼の高ぶる気持ちと緊張感、固唾をのんでみている聴衆の空気と、会場の湿度と温度、そしてギターのその場でしか得られない響き、そこでしかできない演奏というのがあるものです。






















2017年11月15日水曜日

pdfのページを逆に並べる

忘れないうちに。スキャンした時にページの並びを間違えて逆にしてしまいました。pdfのページを逆にするのはどうすればいいか、この作業、ずっと前にやったのですが、覚えてるわけもなく。ネットで探すと、 Acrobatで印刷で逆順に印刷するばできるとありますが、これはダメで画像が劣化してしまいます。しない方法もあるのかもしれませんが。

ほかを探すと、コマンドラインを使うというなんだかマニアックそうなのがありました。自信ないけど、コマンドプロンプトで打ち込めばいいだけみたいなので、そのサイトに行くと、探した情報元が古かったようで、今は、PDFtkというアプリになってます。コマンドラインは使いません。普通のソフトのように使えます。

とりあえず、Add PDFを押してファイルを入れてみると、右側にページ番号がでます。どうも、これが編集可能な模様。ひょっとしてこの番号、1-100のようなのを逆にすれば良いのではとやってみると、ページを逆に、つまり100-1と入れ直して、Create PDFにするとさくっとファイルが作られ、ひらいてみると見事に逆になってました。

つまりこれだけ。pdfのページの並び替えに特化したソフトのようです。有料になれば、もっとわかりやすいのかもしれませんが。ともかく、逆順に簡単にできます。ありがたいフリーソフトです。

2017年11月4日土曜日

Vaio S11 その後

散々けなして買ったVaioS11(ただし最新タイプの一つ前の)ですが、悪態は、ほぼ撤回します。以前のLet's noteには戻れません。今のなら良いのでしょうけど。なによりも軽く起動が速い、最初は違和感があったキータッチは慣れれば悪くもない。また、VaioS11にした最大の理由である、LTEがとてもいい。今はSIMはエキサイトモバイルのを刺してますが、さすがはドコモ、今、これを書いてる関門海峡のトンネルの中でもつながります。新幹線沿線、ほとんど高速で、プチプチ切れるところはありますが、動画でも見るのじゃなければ問題なし。新幹線ではほぼ使えなかった、以前のWiMaxとは比較になりません。そういえば、Wimax2、据え置きのを最近実家に置きましたが、電波強度は悪くないのにひどい接続状況。とくに上りが下りよりも20倍くらい遅いので、webカメラの画像を送ったりすると静止画になります。ないよりはマシだけど、ひどいもんだ。下りもかなり不安定。このVaioに使ってるLTEと比べると、一桁遅く感じます。

一番不快だった、ドラッグのためのクリックの長押しの重たさは、ダブルタッチの設定を変更することで、そもそもこの操作をなくして、解決。

Vaioで唯一、残っていた不満の一つは、ATOKのクラウドでのメインマシンとの同期が、辞書や履歴は反映されてもなぜか設定が反映されないことでしたが、これは、マニュアルで、スタイルファイルを入れれば、解決。何なのという気はしますが。残った不満は、文字の微妙なぼけで、ただ、これはリモートデスクトップでの話なので、LTE使ってるときはさすがにリモートデスクトップしないので、大きな問題ではなし。おそらくこれは縦方向の解像度が1080pixだからのようで(なぜかはわからないけど)、ならば1280のにするかという選択肢はなかったので(仮にやっても、リモートデスクトップでならなかった保証は無いし)、ま、よしと。

これが13万円台で買えたのは、何よりも素晴らしい。ノートは自作が無理にしても、10万も出せば、ハイエンドの4GHzで8コアのが作れるデスクトップに比べて、モバイルは所詮は補助的なものなのに、これに20万も出す気はしません。LTEが使えるのは、まだ事実上、パナソニックのレッツノートのなかにしかないみたいで、一番安いのでも23万くらいするようです。論外。

LTEのために仕方なしに買ったVaio S11でしたが、結構、悪くない。もっとも、マシンは特に問題が無い限りは、良く思えてくるものではありますが。

2017年10月25日水曜日

ミルク・ティ

はじめてコンサートというものに行ったのは、この人めあて。中学校の頃、おおきな体育館(と長らく思ってましたが、何とか会館だったかもしれない)で行われたコンサート、フォークの有名人たちが一堂に会して、九州には滅多に来てくれないから、当然ながらの大行列。友達でそんな趣味の人はいなかったので、一人で長い行列を並んでました。

お目当ては遠藤賢司でした。なにより、ミルク・ティという曲。この歌、詞と旋律とギターが見事に調和したこの世界が好きで、ギターで良く弾いてました。若い頃にしか書けない曲、絶対に。

冬の長い陽が いっぱいの坂道で 
あなたとわたしは黙って 影をみてたわ

そんな、永遠に続きそうに思えた日々のこと。

不思議なくらい、実際にそのコンサートがどうだったかは覚えてないのですが、ともかくこの曲は歌ってくれなくて、がっかりしたことを覚えています。もとより、そんな曲じゃないわけで、今にして思えば。

20年くらい前からフォークソングを再び、とNHKが取り上げて以来、テレビでその演奏をはじめて見ることができました。でも、頭の中で実際に聞いていたのは、親父が無理して買ってくれた、カセットテープレコーダーで何度も何度も聞いていた、あの当時の彼の、きっとどこかのコンサートでのライブ。

つい最近まで演奏活動を続けておられたようですが、がんで亡くなられたそうです。最後まで演奏会の予定が入っておられたとか。

帰宅途中、車の中から、流れ星を見ました。ドライブレコーダーで捉えたのがこちら。30秒過ぎ、JRをくぐって地表に出た瞬間、画面中央上に、磐梯山の方に流れて消える星が写っています。ほんの一瞬のちいさな点、でもいつまでも残しておきたい。

2017年10月22日日曜日

素数に憑かれた人たち

女房にまだこれ読んでるの、と言われてしまったくらい、珍しく長い期間、読んでました。前回、素数の音楽、で素数の分布を知る事の奥深さに魅了され、次も、かなり前に買っておいたこの本を見つけ出し、つらつら見てみたところ、面白い。素数の音楽は、あくまで誰がどうしたという話で、不満な点は、数式がほとんどないこと。出版社は、どこでもこれに気を遣うらしく、数式は極力少なくするように一般書でいってるらしい。取っつきやすくはなっても、これではほんとのおもしろさはわからない。ζ関数くらいなら式の形はわかっても、そもそもいったいリーマン予想ってなに、という不満足感が残りました。

憑かれた人々、かなり前に出版されたこの本、題名とは裏腹に、絶対にリーマン予想の面白さをわからせてやる、という著者の情熱に圧倒されます。ものすごく勉強になりました。なぜeを(πi)乗したら-1に等しくなるのか、はじめてわかったなんて、はずかしくていえやしないにしても。無限級数展開で考えると、こんなに簡単なことなのか。さらに恥をしのんで言えば、そもそも、階乗は整数限定としか知らなかったので、0.5の階乗だとか、負の数の階乗、つまり階乗が連続関数になるとは、ちっとも知らなかった。ガンマ関数なんですね。

級数展開の奥深さ、計算の順番が異なると答えが変わってきたり、定義領域しだいでほかの関数に形を変える不思議に魅了されました。1/(1-x)が1+x+x^2+x^3+x^4+....に等しくなる、そんなはずもないけど、確かに式をいじるとそういう変形もできること、数式が同じならば同一と、素人は思ってしまいますが、それは違う、本質的なことはその奥にある、という、単なる式の変形でない、ほんとの意味の数学にちょっとは触ったような気がします。

この本では数式はたくさん出てますが、複素数にしても、所詮は級数展開なので、小学生でも計算できます。少ない展開数ならばどうなるかと、Originをつかって、いろいろとやってみてました。無限級数は無理ですが。ゼータ関数もcasioの計算サイトで見つけていろいろと調べてみましたが、あんまりうまく計算できず、残念。これは、数学の先生に聞くことにしよう。

そもそも数とは何なのか、全く一般向けでありながら、これほど数学のことを学んだ本は初めてです。これくらい大学でも教えましょう。

ただ、この本、題名が悪い。この内容はこれでは全く予想できなかった。現代もPrime obsessionなので、その通りではありますが、実にもったいない。


2017年10月15日日曜日

ChainLPの設定(aura one)

前回書いたブログから1年たって、ChainLPのaura one用の今の設定は以下の通り。中くらいの解像度に落ち着きました。






出力のところでは、毎回、zipに戻りますが、koboではcbzを選択。文字を最大限に表示させるために、編集>トリミングで、本ごとに余白をぎりぎりまで削ってます。

これまで142冊の本をaura one に入れました。これで3.97G、あと2.75G。300冊弱で一杯かな。十分でしょう。前使ってたAura H2Oはすっかり女房のものになってしまい、最近ではあきらめて彼女の本を入れてます。この設定も、解像度を変えるだけで、このソフトで設定をH2O用に登録しておけば簡単に切り替えられます。

それにしても、これだけ優れたソフトを作ってくれた、No.722さんに感謝です。ブログも終了していて、更新も随分前に終了したようですが、開けたままにしておいてくれてるので、今でも多くの方がダウンロードされてる模様。SEさんなのかな?Calibreというのオープンソフトが世界的には普及してるのでしょうけど、ChainLPの機能に比べると、遠く及びません。日本語のせい?cbzというフォーマットの特殊性?

そもそも、海外ではどうやって自炊本を読んでるんでしょうか?キンドルなどの電子本フォーマットでまにあってるとはとても思えないのですが。何冊か持ってますが。特に教科書など、図がひどい。よくもこれで問題にならないもの。

追記
出版社でマンガの編集をしてる人がたまたまやってきて話していたら、マンガは基本はモノクロ2階調だとか。てっきりグレースケールと思ってました。でも、マンガは基本、線画なので、言われてみれば当たり前なのか。線の太さで濃淡を出すのかな。それ以上の階調はモアレが出るので滅多にやらないといってましたが、それは印刷の時の話。ともかく、マンガならば、上の画像の設定の2bitでなく、1bitにすれば、サイズを半減できます。実際、文庫本でも、1bitにしても十分読めますし、言われないと気がつきません。ほんとは2bit、4階調も要らないかな。1bitにすると、600冊くらい入ることになります。それに動作が速くなるので、いいかもしれない。

追記
これを書いて、半年くらいした今、aura one の32G(実際には収納スペースは28G)バージョンを買った話は、18年3月のに書いていますが、2bitでChainLPしていたので、現在、700冊ほどで16Gくらいになりました。コレクションを使って下のように分類を一ページめいっぱいしましたが、各フォルダがあんまり増えると探すのが面倒になりそう。
これが限界か。村上春樹をこんなに持ってるとは思わなかった。ともあれ、これで書棚3つ分くらいになるからなあ。

ずっと後の追記 20/7
aura oneも一杯になり、Formaを買いました。これはコミックeditionとほぼ同じですがストレージは32G。入れ方はこれと同じです。こちらに書きました。
https://ketupa-peeri.blogspot.com/2020/07/kobo-forma.html


2017年10月13日金曜日

Sephadex

Sephadexはたぶん最初に学んだ実験素材。デキストランの架橋体で、スウェーデンの優れた高分子化学の研究から産まれたと聞きました。生化学では欠かせない素材です。今でも、分子生物学の実験で良く使ってます。あまり一般的な使用目的ではないとは思いますが、これを使うとクローニングが良くできます。

今回、ちょっと違ったイメージングの目的で、なかなか使えそうな素材が見つからなかったとき、ふとこれが使えるかもと思ってやってみると、これが正解でした。生化学の正しい使い方をしていたときは考えたこともなかったですが、これを顕微鏡で使ってみると、きれいな形をしています。ならばと、走査型電子顕微鏡でみてみると、こんな感じ。これは300倍、かわいらしい形で、G-50という良く使うタイプ。fineというサイズ、大体、20-80umとありますが、ほんとにそれくらい。

なかなかきれいです。1300倍ではその均質な網目が見えてます。

 この網の中をタンパクやDNAが入って、大きさによって移動する速さが異なることで大きいのと小さいのを分離できます。網目を3万倍で見たのがこちら。


 この襞の厚みは大体、200nmくらいでしょうか。分離できる分子量は30000以下、とされるので、2nmあたりがこの隙間を通れる限界ということでしょうか。ただ、この撮影、水を吸ってない状態で見てるので、水につけると数倍でかくなります。デキストリンの化学反応だけでよくこんなものができるものです。

これを開発したのはPhrmacia、懐かしい名前です。その後、GEバイオサイエンスに吸収されました。いまでは試薬の最大手のシグマからも買えます。このG-50はGEからので、シグマから買ったG-100があったので見てみると、

G-50よりも目が粗いのがよくわかります。これはfineなどのサイズ分類が書いて無くて、ビーズの不均一さが目立ちます。実際、3万倍では、
 こんな感じ。編み目が随分粗いのは分画できる分子量が球状蛋白で15万以下と、G-50より大きいので、道理。でも15万のタンパクでも4nmくらいとすると、この隙間、遙かに大きく、G-50とは随分違う印象。このゴミのようなのは何でしょう。これも隙間を埋めるのに働いているのか、それとも単に合成の品質の問題なのか。もっとも水が入るとG-50よりもふくれるので、実際にゲル濾過で使うときにはどうなのかわかりませんが。ひょっとして、壁がふくらみ、隙間が埋まるのでしょうか。また表面の襞の密度も場所によってかなりムラがあります。この写真では、中央は密だけど、周辺は粗になってます。なんとなく、合成の品質が落ちるような印象。どこかにOEMさせて作ったものなのかな。

ともかく、こんなのを合成できるほど優れた技術を持ってた会社がなくなってしまったのは寂しい限り。それにしても水を入れたらどうなるのか見たいものです。だけどそれは意外と難しい。

2017年10月12日木曜日

PDF-XChange Editor

pdfを読んで、ハイライトつけたり書き込んだりするのには、フリーのreader、PDFXChange Viewerを使ってきました。とっても優れものです。ただ、さすがにページの編集、ファイルを入れたりOCRしたりはできないので、そこだけAcrobatにしてきました。現在、Acrobat XIのですが、アドビの、5年間しかサポートしない方針のために、今週末でこちらはサポート終了。このために、Abobeは新しいのを買えと、うるさく言ってきてます。だけど、新規のは年間か月々のサブスクリプションのタイプしかなくて、これはなんと、一番安いので毎月1380円、つまり2年で33120円、OCRできるProはその大体一割増し。読む以外の作業は滅多にするものじゃないのに。こんなの誰が買うんだろ?

そんなのを買ってたら納税者から怒られるので、ほかのpdfの編集ができるのを探してました。日本から、JUSTをはじめ、いろんなところからでてて、アマゾンにランキングもあります。全部やってみました。が、いずれも1万もしないのですが、PDF XChangeに慣れてると、どれも使いづら。またOCRはどれもダメ。Acrobatはさくさくやってくれるのに、実は難しいのか、とどうしたものかと思案してました。

PDFXChange Viewerを出してるカナダのTrackerでは当然ながらその有償版を出してるわけですが、これがいろいろなタイプがあって、どれがどう違うのかが実にわかりにくく、考慮してませんでした。だけどこうなるとやむをえずよく読むと、PDF-XChange Editorというのが妥当な線のようで、お試しでダウンロードしてみました。43ドルしかしませんが、使ってみると、なかなかすごい。pdfの図などが、簡単に移動したり削除したり、Wordのような感覚で使えます。そういう作業はしないでしょうが。しかも日本語のOCR、acrobatに比べると遅いですが、横書きならほぼ認識してくれます。どうも縦書きのほうが認識力が弱いような感じですが、画像の質さえ高ければ大丈夫みたい。

ならばこれを買うかと購入に進むと、アカデミック割引がある事に気がつき、その場合は連絡しろとのこと。早速メールでフォームを書いて送ったところ、すぐに大学教員である事の証明が必要と返信が来て、IDカードかHPのprofileのサイトは無いかとのことだったので、HPとORCIDのresearch profileのサイトを知らせるとこれまたすぐにOKと。メールなのがやや面倒ではありますが、ほかのソフトのアカデミック割引にくらべると時間的には随分早く購入ができました。これだと半額になります。消費税(日本のが適応)がしっかりついて、23.5ドルでPDF 編集ソフトが買えてしまいました。Acrobat pro の月単位購入だと、1ヶ月分にもならない。

そこで長年使ってきたViewerを終了して、Acrobatは削除。これでPCからアドビはなくなり、セキュリティの懸念が一つ消えました。それにしてもまったく、ソフトは調べて買わないとえらい損します。

2017年10月8日日曜日

マザボ交換失敗

単一光子計測、という、光子を数える測定をするのに使うパソコンは、SandyBridgeのCorei7 ,3.3HHzが標準仕様。これをオーバークロックして3.9Gで使ってますが、それでも蛍光寿命の測定をするときには、まともなデータにするくらいの光子をとると、計算にちょっとかかります。気になったのは、CPUの温度で、PCの状態を表示するSpeccyでは40度も行かないくらいですが、Biosでみると、普通に70度超になってます。

SandyBridgeも随分前の世代のCPUなので、ここでシングルコアではほぼ最速のCorei7 7700Kにして、オーバークロックすれば5Gくらい出せるかもと、マザボをASUSのPRIME Z270-Aに入れ替えようと、双方を購入。取り付け自体は、マザボを外して入れ替えるだけなのであっさりできましたが、OSの入ってるSSDをつないでも、Windowsはたちあがるものの、Safe modeのような状態で、いくらいじってもダメ。SATAにつないでるドライブもほとんど認識されない。そもそもSSDも6個ある端子のうち、使えたのは一つだけ、という、なんだこれは、という状態。

いくらやっても解消できず、マザボのASUSのサポートに電話。すぐにつながりましたが、スペックを説明すると、それは全くサポートしてません、と意気込んで言われて、けんもほろろ。ASUSは台湾のメーカーですが、とても良く日本語ができるひとでしたが、何がどうサポートされてないのかわからず、全くサポート外です、と怒ったように繰り返し言われるだけ。サポートされないのはわかったので、こちらはよく知らないので教えてくれと粘って、ようやくわかったのは、なるほど全く、愚かなミス。このOS、英語版のWindows7はCorei7 7700シリーズは対応してない、という致命的な問題。これは気がつかなかった。(追記、これほんとかなあ。もしかすると、WIndows7に対応してないということかも)

マシンを操作するPCなので、Windows10は怖くて使えない、というのもありますが、そもそもソフト自体がまだ正式には未対応。そのドイツのメーカーの人によると、実は走る、ということではありますが、それよりも毎月、いつ使えなくなるかドキドキしないといけないというのは困るので、正式対応版が出ても、入れるつもりはありません。

CPUがOSによって使えなくなるというのはWindowsではあまりないような気もして、うっかりしてました。したかなく、もとのマザボに戻して、それなりにほんとに元通りになるか心配でしたが、何事もなかったかのように、起動しました。ただ、元に戻しただと寂しいので、CPUクーラーだけ交換。元からついてたのは、インテルので、10円玉くらいの面積だけを冷やすタイプ。CPUは長方形なので、設置してない部分の温度が高いのでしょう。インテルが出してるくらいだから、それでいいのでしょうが、今回、Corei7 7700K用に買った、サイドフロータイプの虎徹MarkIIがかなり良かったので、これに交換。この冷却器、水冷タイプではなくて、単純に金属板を押しつけて巨大な放熱板に風をあてる、かなりシンプルなというか強引なタイプ。でも物理的に安心な感じ。取り付けも簡単で、つけてみると、Biosで見ても、50度くらいに下がりました。これくらい冷えれば十分でしょう。

結局、放熱板の交換だけになってしまいました。3.9GHzでてれば、たいして変わらないかとあきらめることに。これが5Gになっても、体感はそんなに変わらないかもしれないしと、無理矢理納得することにしました。Corei7 7700Kとマザボが余ってしまいましたが、どれかにつけてみるか。

2017年9月28日木曜日

Vaio S11にLTEを設定

S11を買ったからにはLTEをいれないと意味ないので、各社見比べて、現時点でこちらの目的に最も合いそうなエクサイトを選択。たまに使うという程度なので、使わないときは最小の値段にという条件で調べると、従量課金のほうがよさそう。申し込んで、6日後にdata専用SIM到着。 接続開始となる次の日に、まずエクサイトのマイページで契約完了を確認して、SIMを挿入。白いので後ろから見るとちょっと目立つけど。

ここからが難題でした。APNを「ネットワークとインターネットの接続」から入って、携帯電話のところから設定するのですが、NTTDOCOMOの、切断済み、の文字が消えません。そのうえに既定のAPNというのがあり、その下にNTTDOCOMOのAPNがあり、いれた内容は入ってるように見えますが、気になったのはNTTDOCOMOの後ろに(HSDPA)というのがついてること。なんだかわかりませんが、どうもこのAPNが正しく認識されてない模様。

ではそのうえの「既定のAPN」を削除してAPNを作り直せば、その下が有効になるだろうと、削除しようとしても、これの「削除」アイコンが操作できない。その上、NTTDOCOMOのAPNを入れ直そうとこちらを削除しようとしてもできない。新規にAPNを入れようにもできない。

しばらく考えて、これはAPNを使っているから削除できないことにようやく気がつき、この「携帯電話」の接続を切って、他のネット情報から機内モードをオンにしてからいったんオフにして、WiFi接続を入れました。この状態でAPNの設定を見ると、相変わらず、「既定のAPN」はでてますが、少なくとも、NTTDOCOMOのAPNは消すことができました。それで新たにANPを入れ直して、保存。今度は、「既定のAPN」はその上に相変わらずでてますが、なんだかその前とは違う印象。よく覚えてないけど。

そこで、WiFiをきったところ、今度はあっさり、NTTDOCOMO(LTE)と表示が出て接続完了。やはり(HSDPA)がでてるときはだめらしい。HSDPAが何なのかわかりませんが、とにかく、接続できました。

ともかく、これでWiFiがなくてもネットにつながるようになりました。NTTの回線なので、これまでのWiMaxよりも格段に範囲が広がります。ようやく新幹線の中でも使えるようになったかな??ネットの評判通り、かなり高速です。ただ、これでリモートデスクトップをするとえらいことになるので、気をつけないといけません。


追記
エキサイトモバイルのこの契約は正解でした。接続が素早く、WiFi並で、当然ながらWiMaxと比較にはなりません。こんなに違うものかと驚きでした。毎月余らせてるので、2G使えますが、ほとんど仕事と家の往復だからというはあるにしても、車の中でも良く使うし出張の時でもつけっぱなしですが、500Mにもなりません。普通のブラウジングやメールで使う通信料はしれるようです。YouTube程度ならおそらく相当見てもまったく余裕。ダゾーンだとどうなるのか知りませんが。リモートデスクトップで心配と上に書いてましたが、全くの杞憂でした。短い時間にしてもよく使ってますが、たいしてかかりません。これで月々500円くらいとは。

2017年9月23日土曜日

エチブロに代わるDNA染色試薬 追記240930

研究系掲示板で度々話題に上がるのが、DNAをどうやって染めるか。これまで使ってきたエチブロでいいものか。実質安全だから使い続けても良いという主張と、変異原性ははっきりと証明されてて、これだけいろんな安全な代替試薬が出てるんだからそれに切り替えるべき、という主張の対立が長く続いてました。いまではエチブロを使い続けてるところはさすがに少ないと思いますが、では何に置き換えるかは悩ましいまま。

うちのラボではずっと以前から、紙にエチブロがしみこませてあるエチブロシートを使ってました。これは紙にエチブロがしみこんでいるのでゲルの上に乗せればよく、エチブロ溶液はつかわず、あとはゲルと一緒にまるめてぽいできるので安全。これはEdvotekというアメリカのメーカーが主に実習用にと開発したもので、そのCOEとやりとりしていたこともありました。日本でこれをひろめようと、コスモバイオの人もやってきて協議したのですが、どうしてもゲルの上に置いて数分待たないといけないし、ゲルの中にエチブロを入れるという、昔は一般的だったやり方より感度が落ちるので、ほとんど広がらず、また、Edvotekもなぜか全く宣伝しなくなりました。彼に何度聞いてもその点だけは答えないので、どうも、問題が起きたのかな?今でも買えますが、今のタイプはエチブロ面のプラスティックシートの接着が妙に強い。察するに、FDAなどから剥がすときにエチブロが舞い散るリスクを指摘されたのかもしれません。

それでエチブロ代替品を調べてて、ちょうどニッポンジーンから ミドリグリーンアドバンスという試薬のキャンペーンがあったので、注文メールを代理店に送った後で、下のPDFを見つけて、すぐに取り消しました。それがこのpaper。
Comparison of Nucleic Acid Gel Stains Cell permeability, safety, and sensitivity of ethidium bromide alternatives

これは各社極秘にしてきたDNA染色試薬の組成をBiotiumが分析したもの。Midori Green Avance も調べられて、この試薬は、なんとアクリジンオレンジとDAPIの混液である事が暴かれてます。ニッポンジーンのサイトを見ると、安全なエチブロ代替品というように書いてありますが。。。アクリジンオレンジもDAPIも単体で買えば遙かに安いというのはともかくも、アクリジンオレンジの変異原性はよく知られているし、DAPIは組織切片・培養細胞の核を染めるのに良く使う試薬で、細胞への透過性もあるので、それなりに気を遣います。ニッポンジーンというと、現在は富士フィルムの傘下に入ったとはいえ、試薬メーカーの大御所、WAKOの関連企業。

このpdfでは他に、似たようなもの、アクリジンオレンジ+DAPIもあるし、DAPIそのもののところもあれば、また、PIというDAPIと同じように良く使う核染色試薬も堂々と別の名前で、元化合物よりも遙かに高い値段で売られてます。PIは、DAPIよりほとんど細胞内に浸透しない分、ましなのでしょうか。いずれにしても、ひどい商売。

エチブロ代替品としておそらく一番広く使われているSYBR SafeはThiazole orange誘導体だそうです。この情報は、どうも、2012年に
  1 H and  13 C NMR Assignments for the Cyanine Dyes SYBR Safe and Thiazole Orange
という論文で、JOCに報告されたのが最初らしい。しかし、先のBiotumのpdfでは、この化合物は、DAPIと同じように細胞膜透過性があり、この「安全性」を証明するほ乳類細胞での変異原性試験では実際に使う濃度よりもずっと低い濃度をつかっていたということも暴かれてます。ほんとなら、ほぼ詐欺。

この試薬、今はThermoFisherで売られていて、Thermoといえばどこでも吸収合併しまくってる試薬業界の最大手で、SYBRシリーズはエチブロの代替試薬として、ほぼ主流になっているようです。この業界は、こんな悪質なことがまかり通る世界なの? 確かに、研究試薬は、食品でも医薬品でもなく、規制が緩いので、メーカーはそれにつけこんでるのでしょうか。確かに、がんになっても関連性が証明できないから、訴えられるわけもないし、そもそもこれを使ってる人は食品・医薬品業界にくらべて圧倒的に少ない。

ただ、この論文では、同時に、Biotiumが作ったGelRedとGelGreenの優位性、つまり細胞膜透過性が無く、ほんとうに変異原性がないこと、を証明するためのものなので、微妙なところもあるのですが、こちらにしてみれば、手前味噌でかまわないし、貴重な情報です。だけど、GelRedの組成がなんなのかは書いてないというオチがついてますが、これを機に、他社もGelRedの組成を調べて欲しいもの。でもここまで言ってるからには、安全性は大丈夫でしょう。

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追記 GelRedは感度が高く、一般ゴミに出せるくらい安全性が高いということなので、ラボではこちらに切り替えようとしています。泳動後すぐに見れるので、昔のエチブロ入りのゲルで流してたときみたい。エチブロより高感度ですが。ただ、ネックは、DNAラダーが、あんまり美しくないこと。強く結合しすぎるからか。特に高分子量がうまく分離しません。さらに、移動度がLadderに比べて早い。なぜ?それで何か手はないかと調べると、本家のサイトでは、DNAの量を減らせ、とのこと。まあ、そうでしょうが、これはたいして役立たずなので、他を探しまくったところ、以下の改良法を発見。
http://bitesizebio.com/25078/faster-even-cooler-dna-gels/
まだ試してないですが、ナトリウムの代わりにリチウムを使い、酢酸イオンにホウ酸イオンを加えたバッファー、LABにするというアイデア、これはよさそうだ。

さらに追記
上記のLABバッファーは秀逸でした。こちらに切り替えました。ただそれでもDNA ladderの3K以上が団子になりがちなので、量をぎりぎりまで減らすことと試料と同じsample bufferを同量添加することで、ほぼきれいに分離できるようになり、また、サンプルの移動度の異常さもなくなりました。これで手間が減り、エチブロよりもかなり高感度になり、なにより安全になりました。Biotium、えらい。

もうちょっと追記
ただのような試薬に別の名前をつけてあたかも特に開発したようなものとして高く売る、というのは、どの業界でもある事で、よくいわれるのが ブロッティングなどの増感に使うCanGetSignalという試薬。これはカゼインに4%くらいのPEG6000が入ったもので原価はすごく安いですが、このラベルの貼られた瓶に入れられると一万円以上します。だけど、PEG6000の濃度を振って自分で作ればもっと至適なシグナル増幅ができます。こういうのは多いですが、商売はそういうもので、試薬自体は無毒だから問題はなし。こういう情報は特許として公開されていて調べればすぐにわかることです。ミドリグリーンの悪質さとは訳が違います。

あまりにアクセスが多いのでひとこと追加
DAPIは細胞膜透過性があると書きましたが、細胞膜をたとえばヘキスト333342ほどスカスカ通過して核内DNAを染めるわけではありません。 かなり遅い。だけど、分子構造からわかるように膜に親和性があり、ゆっくりと浸透します。アミノ基があるだけなので。細胞毒性はあるけど、genotoxicityや変異原性はないという報告はあります。ただWikiによれば、mutagenとこの化合物の製造過程では表記されているそうです。


もっとアクセスが増えてるのでさらに調べて追記
これを書いてから2年近くが過ぎようとしてます。Biotumからの追加情報はないかと見たところ、CCR Title 22で水溶性で無毒性廃棄物であることが認証されたとの新たなpdfの中に、細胞内には侵入しないというデータの他に、Amesテストの詳しい結果が出てました。エチブロではもちろん高い変異原性がありますが、代謝産物でもGelRed GelGreeenは相当高濃度でも無害で、SYBR Greenはなぜか低濃度の一定の範囲においてエチブロよりも高い変異原性が見られてます。叩きますねえ。

さらに追記240930 GelGreenへ 
NIPPONgeneticsによるとMidoriGreenはアクリジンオレンジとDAPIの混合液ではない、とのこと。確かに、吸収スペクトルを調べると、よく似てますが、ちょっとずれます。たぶん、これらの誘導体か、なにかを混ぜてるか、のようです。
 ともかく、これを使うメリットは、~400nmくらいのLED照明でもUV励起でも、ゲルに加えて泳動した際に高分子量領域の分離がGelRedに比べていいことですが、GelGreenという、GelRedのあとに出た色素を使うと、圧倒的にGelGreenのほうが高感度で、というかずっと明るく、また、希釈も10万倍で十分で(Biotiumは一万倍希釈でといってますが、これは謎)、TBE中で泳動すると、分離能はMidoriGreenと遜色なく、高分子領域でも良好。これなら価格面でもエチブロ溶液よりも安い。100uLのスモールサイズので、10Lのゲルが作れます。
 安全性も代謝物存在下での変異原性試験で濃いGelRed溶液を作った場合には、ほんのちょっとだけ水よりも高い変異原性を持つのに対して、GelGreenは濃い溶液でも、水と同レベルというデータが出てます。またGelGreenもGelRed同様に細胞膜を透過しません。これは重要。ただし、GelGreenはほぼほぼLED照明専用で、UV照明ではまず使えません。GelRedとはそういう使い分けのようです。
 私が宣伝するメリットもないのですが、ともかく他の色素とは比較になりません。GelGreenに切り替えました。

2017年5月11日木曜日

「ユキの日記」

本を読むのは寝る前のわずかな時間。あんまり面白いとそれが寝不足になってしまい、その加減が微妙。騎士団長のあとは、火星の人、久々のSFでした。SFというより、火星に降り立った際に、いかにも起こりそうなほんのちょっとしたトラブル。それにどう対処できるかを、かなり科学的に正しく(ふと思ったのだけど、politically correctとは良くアメリカ人が言うけど、scientifically correctというのか)検討して、火星で生き伸びるにはどうすればいいか、について書かれた、良きアメリカ人の奮闘の物語。久々の一気読みSF。

おかげで寝不足。さてと、次に読む本を物色してたとき、「ユキの日記」に目がとまりました。これは、心理学者の笠原嘉が編集した、若くして亡くなった女性が21歳の分裂症(いまでいう統合失調症)発症時までつけていた60冊の日記。最後の担当医だった彼に、役に立てばとご家族が持ってこられたものだそうです。この本、いつだったか、東京の高架下の近くにあった小さな古本屋で見つけて読みもせずそのまま本棚に置いてたのを、去年の暮れにスキャンしてPDFにしてaura oneの中にいれてさらに眠ってました。うしろのほうをぱらぱら読んで驚きました。

心理学の本、若い頃、よく読んでました。上智大の教授だった霜山徳爾がお気に入りで随分買いあさりました。笠原嘉の「現存在分析」もそんな頃、天神コアにあった紀伊國屋で見つけた本の一つ。今頃知りましたが、後書きによると、彼は名古屋大の先生だったらしい。この本、何度も読みました。

こういう心の奥底に降りていく作業、好きというよりは、その頃生きていく上で必須でした。若い頃、嵐のような、ぴりぴりした毎日の中、そうやって心の根元までおりてパッチをあてられたのは、これらのおかげかもしれない。そういえば、騎士団長のクライマックス、メタファーの世界に降りていって暗い谷底をさまよい歩くさまは、その作業に似てる。

ユキの日記、驚くほど詳細な心の記録です。ひどい喘息に生涯悩まされ、健康な青春は夢でしかなかった女性。文字を覚えて文章を綴れるようになる8歳から、心が成長してしっかりしたとても豊かな表現を獲得するようになる15歳あたり、そして次第に病んでいき、逃れることができなくなっていくまでの格闘の記録です。そして、そのあふれるほどの才能が実に悲しい。もしうまく世界と折り合いをつけることができていたならば。

ユキのその頃の詩から、

「春は来るまい、
花はもう再び咲くまい、
碧い空が頭上高くひろがり
そよ風吹く緑の芝の上に
おどる陽ざしを見ることはあるまい。

心よ つぶやくな
あせるな、あこがれるな、
・・・」

何よりも美しいのはHさんに恋心を抱いていた頃の記録。彼女の、短く薄幸としかいいようのない人生の中で、もしかしたら一番輝いていたときなのかもしれない。Hさんのちょっとした仕草、言葉のやりとりに喜び、涙し、憎み。だけど、彼は修道院に入ってしまって遠い存在になり、彼の名前はいつしか消えます。一度、彼女が修道院に行ったときにも会うことすら許されない。彼女の恋は実ることなく、癒えることなく、そうするうちに心が次第に壊れていきます。

だけど、その頃の彼女の日記には、破綻しつつも、はっとさせられるものがあります。

 「孤独になれば私の病気はいえる。そして今、私は孤独になることができる。私があるから・・・。内省してここに私があると思うことができる。この私がなかったのではないか。 そしてこの今という時が。われを忘れて考えにふけっていることはできても、こうして一人で自分にはなすことはできなかった。
 私はいえたのだ。精神分裂症から。私の病気でさえなかった。私がなかった・・。まわりもみわたしても閉ざされた部屋の中にいるような心地がした。さびしいという哀しさでさえなく、頼りなかった。私さえなくて頼りなかった。何もかも過去の遺産だった。過去にとらわれていた。自由がなかった。おそろしいことだった。自由にたのしんでいる。テニスを見ている女の人を後からみたときの苦しかったこと・・・ うらやむ、本当にうらやんだ。健康なすべての人を。みな自分があった。自分のたのしみが・・・。
 私は今ここに、私がいる。しずかに・・・ 何も持たず、希望も能力も友もなく、ここに・・・ しかししずかに。このおだやかな感じこそ私だったのではないか?何もなくても待っている私、責任をとり誠をつくす心の私。私は部屋を見回す。そして部屋があるのではなく、私があるのを感じる。真にここの主として。とざされてとらわれているのでない。」

「大空がある。星がきらめく、数えきれないほど・・・。そしてこれを見る私、それはこの大空のきらめきに答える私だ。大空を感じる私ではない。感じるということは何ものでもない。ここに私がいる。私はしずかに自分を感じる。この私、それはただ私のためにだけあるのだ。そして私はこれを大切にしなくてはならないのだ。」

この巨大な、私。どうやって取り扱えばいいのか。若い頃の苦しみはいつもこれ。だけどたいていはいつのまにか折り合いをつけて、つけざるをえなくなるか、誰かなにかが、それこそ騎士団長のように手助けをしてくれるかして切り抜けて、気がついたらそんなことがあったのも忘れて年をとっていきます。だけど、彼女の場合、そこから出ることができなかった。防具がなかった。素手で闘い、もがく彼女に、いいんだよ、とは誰も云ってくれなかった。

精神病理学のおそらく格好の材料なのかもしれません。でもなにより、その絶望的な格闘は、胸を打ちます。

2017年5月2日火曜日

Outlookのプレビュー画面が出ない

ときどきOutlookがおかしくなることがあります。この前は、メールのURLをクリックしてもブラウザに飛ばない、というトラブル。以前書きました。

今度は、プレビュー画面が出てこないという、はじめて遭遇する謎の症状。表示>閲覧で右や下を選べば、メールのプレビューができるはずで、他の設定は見つからず、あれやこれやとやってみて、ふと、ひょっとしてこれも、Windows10の更新の仕業では、と再び、netsh winsock resetをコマンドプロンプト(管理者権限)で打ち込んで、再起動すると元通りに表示されるようになりました。

どうやら、Windows10が勝手に更新するときに、Windowsのなにかの設定をやり忘れてしまうとか、そんな感じらしい。他のソフトで影響を受けることはないようですが、なぜかOutlookには来ます。いつ更新したかさえわかれば見当もつくのに、何の通知もなしにされるのでいい迷惑。これを外して、更新時期を選択できるようなソフトをどこかで見かけたのだけど、どこだったのか。


というのを書こうと思ったのでなく、予定してたのは、ScanSnapのローラー交換の話。このiX500、買ったときはここまで強力なマシンとは想像もしてませんでした。すでに、たぶん1000冊くらいは本を自炊したので、文庫からでかい教科書までたぶん20万枚くらいの様々なサイズの紙をスキャンしたことになるのかな。そろそろゴムローラーはすり減る頃と、ローラーを交換。


上は、紙を吸い込む方のローラーで(下が古い方)、左がビックローラーと書いてあった、紙を送る方のローラー(古い方は左側)。さすがに随分すり減ってます。

こんなのに8000円とはちょっと高い気がしないでもないですが、ここまでたいしたトラブルなしに本をすいすいスキャンしてくれたことに感謝して、迷わずに投資(というほどかというのはさておき)しました。

もともとトラブルもなかったので、替えても何も変化無しですが、本の裁断が悪くて、2ページがちょっとくっついたところをなんなく引きちぎってくれたのは、このおかげかな。これだけ使い込んでも、他には何の劣化も無し。この富士通の技術はまったくすごいものがあります。これとChainLP無しには蔵書の電子化はできませんでした。 ありがたや。

2017年4月23日日曜日

ChainLPで2段組本を2ページ分離表示

そういう訳で「家の馬鹿息子1」が早くも到着。実に700ページを超える大著です。長らく絶版で、高値がついてますが、全4冊のうち、1だけが1800円程度で出ていて、迷わず購入。2-4は1万近くします。サルトルの本を中古で買うと、最初の2ー3ページくらいに(だけ)書き込みがあるものですが、これはほぼ新品の状態でした。さすがにかなり古びてはいますが、スキャンするので、全く問題なし。いったい、この本はどこにあったのだろう?ともかく、早速ScanSnapしましたが(半分に分割しないと裁断すらできなかったというのはともかく)、人文書院の彼の他の本と同様、これも2段組。老眼にはなかなか厳しい。

こういうとき、8インチ弱のaura oneでなく、新しく出るソニーの13インチのリーダーが脳裏を横切りますが、今では2段組の本はあまりないので(ハヤカワミステリといくつかの全集本くらいか)、そのために買うのもばからしい。

2段組を上下に分けることができれば、aura oneなり auraH2Oを横にして読めばいいだけで、実際、数年前に、一冊だけ、ハヤカワミステリをそうやって自炊したことがあったのでできるはず。どうやったのか、その設定を記録してなかったので、今回、再び、2段組の1ページを2ページに分割表示するように設定を試行錯誤。結局、2つの設定だけでした。「回転」を時計回りに、「縦横比」をチェックを入れて「半分個」に。普通は余白をぎりぎりまで削るために入れるトリミングの設定は、はずしたほうが、中央にズレすぎるのを防ぐことができるので0のまま。逆にそのサイズ設定を毎回する必要もないし。またページ補正を単純横優先にするのもポイント。

今度は、この設定を保存しておきました。これだけでどんな小さな2段組も楽に読めるようになりました。もっともページめくりがやたら頻繁、文字がでかすぎ、というのは当たり前にしても、ともかく読みやすくなります。

このChainLP、これがあるから自炊ができているわけですが、なんて優れたソフトなんだろうと改めて感心。この設定では、1ページが2ページになるわけですが、この設定にすると自動的に1、2の選択タブが↓のようにパネルの下に出て、分割して2ページに表示できます。


このソフトを作ってくれた人には、ただただ感謝。完成度が高く、便利で、Windows10になっても安定です。日本語ができないとこれが使えず、あとはCalibreくらいしかないので、自炊の範囲が限られるでしょう。有料のはあるようですが。だから海外では、自炊はあまり聞いたことがなく、電子本が少なくとも日本よりは売れてるのかな。だけど、電子本は、ただ本をスキャンしただけのもあり、解像度も低いのでAmazonのレビューを見ると、細かい部分が見れないと怒りのコメントも珍しくありません。技術自体はそんなに難しいはずもないのに。

5年経っての追記
この記事、今でも多くの方が検索してみられてますので、最近気がついたことを一つ。上のやり方でやると、ページの分け位置がずれて、片方のページの上か下が切れてしまうことがあります。中心がずれてるわけですが、この場合、ChainLPのトリミングでもやった限りでは解決できませんでした。
 仕方ないのでこの場合は、ACROBAT等のpdfの編集ができるソフトでまず文字領域だけを表示するようトリミングをして、これを保存の時に画像のみを連番の.pngファイルとして保存し、zipに圧縮します。次にこのフォルダをChainLPで開くときに、dirとして開くと、トリムさせた画像の部分だけが100%として表示されるので、これを上の方法で2つにわければ均等に分けることができて、奇数と偶数ページでどちらかが切れることが解消されます。
 もちろん、このときに適当に余白を上下均等に入れれば、文字がでかすぎる感も減らせますが、老眼的には特に問題ないかな。見栄張っても仕方ないし。
 
さらに時が経ち2023年の追記
いまだに多くの方が毎日来られてるのは、やはり自炊で電子リーダーのサイズが小さいということですね。koboさんでなくてもいいのだけど、どこか9インチのを出してくれればいいのだけど。 ともかく、この2段本のやり方はずれる場合の対処をこの前の追記に書きましたが、これはめんどくさい。こんなことしなくてもChainLPの設定でこれに対応できることに気がつきました。それは編集>トリミングを開いて、出てきたこのパネル、
これの右上の事後トリミングの中の左側(か右側)の数字と、下の余白の、事後トリミングと反対側の数字を設定すること。これで、2段の範囲が設定できるようです。それから、詳細設定>画像で1bitにしたほうが、サイズが半分になるし、読みやすく、見栄えも良くなるみたいです。2bitで今までやってきましたが、単にストレージを無駄に使ってました。全部入れ直し中という・・・ それにしても、改めて、このソフトのものすごさには感動します。 


2017年4月15日土曜日

騎士団長

随分時間をかけて騎士団長を読み終えました。おいしい料理はなくなるまでゆっくり食べたいもの、特に物語は終わるのが惜しくて、できるだけ引き延ばすのは、子どもの頃からの習慣。

子どもの頃、家があんまり豊かでなかったのかどうか、そんなに困ってた覚えもないけど(子どもにはわからない)、いつも本に飢えてました。でもたぶん、それは自分でいわなかったせい。どうも、そんな子どもだったようです。友達が持っていた物語の全集(何だったんだろう、あれは)をなによりうらやましく思ってました。その家では、大事に棚の中にしまって、貸してくれませんでした。ちょっとだけ見せてもらって、ページをめくったときのわくわく感、本棚に戻したときの悲しさはなんだか、妙に残りました。

彼の作品は大抵読んでますが、この物語、際だって面白かった。カテゴリー的には、世界の終わり、と同列なのかもしれませんが、内容としては格段と上。ノルウェイの森を思い出します。

本を読むのは寝る前しか時間がないわけですが、毎晩、騎士団長が出てくるのを楽しみにしてました。それも終わってしまった・・

人生のある時期に、ふと気がついたら騎士団長が椅子の上に座っている、そんなときはやってきます。いつもと変わらなく続くような日常の中でも、ある日、気がついたら、イデアと向き合い、メタファーの黄泉国を彷徨う、そんな、時間がかならず訪れます。

でもそれは、顔無しを見かけることもなく、2重メタファーへと流れる川にも、そもそもそんなものが流れていることすら気がつかない、そんな人生よりはずっといいのかもしれません。まりえの影を追って、その世界の裂け目に入り込むことで、我々はこの世界のことをもっと深く理解できる、のかもしれません。

彼の最高傑作。全く期待してなかっただけに、素晴らしい物語の力。

さて、次に何読むか・・ クルコフ?

2017年4月9日日曜日

DFP

学生時代、タンパク分解酵素の研究が最初の研究テーマだったので、その阻害剤のDFPという試薬を使うことになりしばらく実験してました。ある日、ベンチに顔を出した教授にどういう実験してるのときかれて、DFPですというと、ぞっとするような話を聞かされました。彼の友達(だったのか、その研究室員だったのか)がDFPを使って実験をしていたところ、その人が周りの人に、なんでこんなに暗いところにいるの、灯りつけようやと言い出したとか。昼間、普通に明るい研究室の中で。DFPを吸ってしまったらしく、視神経がやられてたという話でした。神経伝達の際に出るアセチルコリンの再利用を行う酵素アセチルコリンエステラーゼ(血液検査項目にも出てきます)と、当時やってたタンパク分解酵素は親戚で、DFPで反応できなくなります。タンパク分解酵素が少々つぶれてもあまり即死になることはないでしょうが、アセチルコリンエステラーゼは神経伝達が止まるのでやばい。

今なら研究室でそんなことしてたら大騒ぎです。揮発性の高い試薬なので、もちろん当時もドラフトチャンバーの中でしかその試薬は使いませんでしたが、そこまで危ないとは知らなかった。水に出会うとすぐに壊れるので、体内に入ったらすぐにつぶれるのかと思ってましたが、ぞっとしました。、もっとも、それがほんとの話なのか、あるいは教授が気をつけるようにと少々脚色して聞かせてくれたのか、いまとなってはわかりませんが。このDFPの構造を真ん中で2つに分けたら、サリンになります。サリンの方が小さい分、体内への浸透性も高いでしょう。

サリンを使ったオウム真理教のテロのとき、そういうこともあってニュースを聞いて、その危険性は肌身に感じました。実験室で使う量は、ごく微量、実際に加えるのはほんの数マイクロリットルですが、封印されてたガラスバイアルには1ccくらい入っています。普通のベンチで開けるのはもちろん厳禁。防毒マスクが必須です。そんなのが床の上にこぼれてたら、息を止めて全力で逃げ出さないといけません。

シリアの、たぶんサリンと言われている化学兵器の攻撃、それを浴びた子どもたちの映像をみて、そんな話を思い出しました。だから水をかけるのは正しい、でも、作用はほとんど数分で完了しています。失われた神経は元に戻りません。正視できるものではありませんでした。

これを受けたトランプ大統領の派手なミサイルの発射。支持率が低迷しているので、たぶん、やるだろうと思いましたが、ただ、プーチンと仲良しだったのはどうなったのだろう。そもそも、ロシアとシリアの関係、あまりわかりやすいものではありません。ロシアの後ろ盾さえなければ、現政権の暴挙は、あるいは存続自体もできないのではと、素人は思いますが。サリンへのお返しだけだと言っても、それで亡くなった兵士もいます。家族は許さないし。反アサド政権派の支援というより他国が自国に侵略したとみます。オバマさんが攻撃を行わなかったのはそのあとでアフガン、ベトナム化になるのを懸念してのことでした。他国に攻撃するのは、とても難しい。

ロシアが反政府派の拠点を攻撃したとのこと。やむことのない報復の繰り返しです。

2017年3月24日金曜日

netsh winsock reset

勝手にやってくれるWindows10の更新のおかげで、書き加えた文章が失われたり散々ですが(それをとめるためのアプリを入れたつもりだったのにどうも機能してない)、今度は、Outlook2016からブラウザ(Firefox)に飛ばなくなりました。メールのリンクをクリックしてもブラウザにとばないので、いちいち右クリックしてリンクURLをコピーしてFirefoxに入れないととべず、めんどくさいこと甚だしい。

既定のブラウザはFireFoxになってるのに、なぜか飛ばない。どうも、この前の月例更新で、それがはずれったぽい。この手の不具合はいつになったら修正してくれるのかわからないので、ネットで調べたところ、一つあてになりそうなのが見つかりました。とにかくやってみようと、管理者権限でコマンドプロンプトを立ち上げて、そこに
netsh winsock reset
といれて実行させるとあっさり解決しました。どうもWindowsのカタログの再設定が行われるようで、再起動するとようやく元通りに、つまりOutlookからブラウザに飛ぶようになりました。かなり便利。

確かに、OSをマイクロソフトの側でアップデートさせるのはOSの管理の側からは、一番便利でしょうが、端末の方は、それぞれに中身が異なります。すべての組み合わせをテストできるわけないので、修正を繰り返すのでしょうが、マシンでマイナーなことをやってると、なかなか対応してくれません。OulookはWin10の導入時に下書きの際に不具合があり、しばらく使いにくいままでした。ユーザーとすれば、まったくありがた迷惑。備忘録でした。


そんなことで騒ぐなと。

←4月の月例アップデートでも同じ現象。

2017年3月18日土曜日

Canto Ostinato by Son Semin, Lee Sangwook 2

前にも書いた、Canto Ostinato。無性に、これが聞きたくなることがあります。
ほんとは、昨日、妙につかれていて、早く家に帰って騎士団長を読みながら、これを聞きたかったのだけど、イヤホンの良いほうが行方不明になってることに気づき、今日まで待って。

演奏者に最大限の選択と自由を与えているten Holtのこの曲には、当然ながら様々な演奏で溢れています。ネットではテレビで放映されたらしいクリップや、街角、駅でのパフォーマンスも。駅にピアノが置いてあって、列車に乗りにきた人たちが通りすがりに眺めて、そんな中でピアノがこの曲を弾いてるシーンはいい。この曲を耳の奥に残してどこに行くのでしょうね。仕事なのか、それがあんまり楽しくなかったりして、買い物だったり、あるいは息子のところなのか、友達や恋人と遊びに行くのか。

CDからとったものや、演奏会のもの(これが一番つまらないかもしれない)、個人での演奏ももちろん。ピアノが一番多い。1台でも、2台でも、4台のもあります。4台のピアノに、オルガンも入ったのもあって、これはたぶん、オランダのどこかの劇場ので演奏がとてもよかったのですが、どこでみたのか、今は見つからない(←発見。アムステルダムの劇場。でもいすは取り払われ、人々は床に寝転がり毛布を掛けている人もいます。)。この曲は旋律的に、叩く楽器があうので、マリンバの演奏もいくつかあります。サクソフォーンや、チェロのアンサンブルのもあって、こうなると、ほとんど映画音楽の風情ですが、それも悪くない。

でもやはり、はじめてこの曲を聞いた、表題の韓国の若者二人による演奏が好き。

https://www.youtube.com/watch?v=SUWI_g3pd2s
 
ten Holtはミニマムミュージックの作曲家とされていますが、ほとんどこの曲しか知られていません。でもこれで音楽の広大な世界を作りました。これはほとんど言語のようなものなのかもしれない。この曲作りに3年を費やしています。彼にとって、奇跡の3年だったのでしょう。

この曲は、前も書きましたが、106のセクションからなり、それぞれに多くのvariationもあり、各セクションには簡単な指示、たとえば繰り返さないなどもありますが、事実上、無数の音楽を作ることができます。たいていの演奏では、セクション1なのか、特徴的な不協和音が登場してくる最初のセクションから入りますが、後ろの方からはじめてるのもあります。これからどうやって音楽を構築するか、演奏家に高い音楽性を要求します。

彼らは多くの他の演奏者たちと異なり、トランス的な要素ではない、もう一つの側面、この世に生きることの不安さ、焦燥感にフォーカスしているように思えます。女房が嫌いなのはそのせいかな。だけど、この世界は不安に満ちて、我々はいつもその意味を見いだしかねてあせっているじゃないですか。

ふと思いましたが、ネットではアジア人の演奏は他に見つかりません。なぜだろう。日本人は皆無にしても、珍しく、中国人も見当たらないかな。YouTubeでないサイトでは、ロシアなのか、読めないところの演奏が数多く。←いや、日本人の演奏も短いピースがでてました。

ふたりの若者の表情を見ることができるのも面白く、よく見ると曲の単位であるセクションの切り替えのところで、サインを送ってます。左のピアニストが指示してるのかな。各セクションの並びは決めてるのでしょうが、繰り返しの回数はそのときで違っているのかもしれません。これだけ弾けるのに、ネットで調べてもほぼ無名らしい。ひょっとしたら、Lee Sangwookによる曲?というのが見つかりました。

この二人とも音楽大学の学生なのかな?仲間同士で撮影して、皆で聞いてる?どこか不満げな、にこりともしない、何だよ、とでもいいたげな、無愛想でぶっきらぼう、こんな姿は演奏会で見ることのない、音楽仲間にしか見せない顔。私はこういう、道ばたで聴くような音楽が好きです。他の事は何も考えず、彼らはこの曲を、まるで自分たちの言葉のように語ります。

微妙に変化する音列、その複雑な繰り返し、次第に変化していっては、また基本の音の形に戻り、これらは、Bridgeと作曲者がよんでいるパートでつながります。この構造が陶酔感を起こすのかな。そう、音楽はいつまでもこうやって続いていて欲しいもの。こういうのがダンスミュージックに取り込まれて、今のクラブ音楽になってるのでしょうか。夜を徹して踊り明かしてる若者の気持ち。もっとも自分が若い頃は、やったこともなかったですが。

そろそろ、冬も終わり。昨日、ちょうど震災の年に大学院に入って、学位を得て遠くのラボで職を得た人が挨拶に来てくれました。ずっと一緒にjournal clubもやってきて、廊下ですれ違う度にうれしそうに挨拶してくれる女性でした。人が去るのはいつも寂しいものです。春は、花粉症に悩まされなくなった今でも、だからあまり好きじゃない。

ともかく。ソウルのこの二人の若者はほんとにいい。高い集中を必要とする90分にわたるこの演奏をおえて、床に座って聴いてる数人の若者たちに、軽く頭を下げるだけで、何事もなさそうにしてる、テレもあるのか。この体力と技量には、全く驚嘆します。ソウル、絶えず北からの緊張を強いられている大都会、日に日にその危機感が増す今、そんな街で彼らは何してるんでしょう。人は、こんな音楽を作ることもできるのに。

2017年2月22日水曜日

元のグランドに

学生たちとノンアルコールの飲み会に行ったとき、気がついたら、後期試験がなかったという話をしていて、なんのことかしばらく気がつきませんでしたが、311のあとの試験のことでした。そうでした。もうすぐ311が来ます。

原発がなかば制御不能だったときに、山を隔てたとはいえ、一番違い大学で入学試験をやる事など不可能で、そのままセンター試験の点数だけで、入学を決めざるを得ませんでした。面接などできるわけもなく、難しい決断でした。それで後期試験がなかったわけではないのです。ともかく、そのときは、誰も口には出さなくても、心の奥では、そもそもうちの大学はここで存続できるのだろうか、という不安があったと思います。

少なくとも今のままの状態で落ち着けば、現実的な被害は実はそれほどたいしたことは無いだろうというのは、長年放射能を使って研究してればわかるものでした。ただ、それと人が戻って来るかは別。そこに我々は最大の不安を持ってました。でも、それは東北人を見くびってました。

今日、大学のグランドが元のグランドに戻ります。自衛隊のヘリから防護服を着た救助隊員たちが降りて、原発内での汚染水に足を使った作業員を運んだときから、長い時間がかかって、ついにもとのグランド、サッカーと、ラグビーと、陸上の部員たちが所狭しと駆け巡るグランドに戻ります。

学生たちはよく我慢してくれました。練習は近くのグランドを使ってくれと頼んでもおとなしくうなずいて(あとで何を言ってるかはともかくとしても)、直接の不満は聞いたこともありません。

汚れたなら、元に戻せばいい、時間がかかっても丁寧に隅々まできれいにすればいい。これも我々の社会が選んできたこと、文句を言わない。我々にはできるんだから。東北人のこの我慢強さは、ほんとうにあきれかえるほど。見せつけられました。

明日、大学に行けば、春休みのなか、誰か走ってるはず。それが早くみたい。

2017年2月3日金曜日

低地

この本が、普通に、本屋の書棚に並んでいることが、まず信じられない。ラヒリ、彼女の小説は、「停電の夜に」が有名です。だけど、インドから移民したアメリカ人、東海岸に住む若い作家、美人だし、いかにもという印象で、偏見が強くて、彼女の本は一冊も読んだことはありません。手にしたことは10回くらいはありますが。ただ、この「低地」は、ぱっと見、そんなところがなく、例によって適当にアマゾンで買った本でしたが、これほどの作品とは・・ 

よく、出版社の宣伝帯に、渾身の、という言葉が並びますが、これはまさに、彼女の、渾身の、まさに魂を込めた作品。ここまで書けるものかと思うほどの、重たい、とても重い、救いのない世界。読んでいて思わず空を見上げてしまうほど。

カルカッタの、葦の生い茂る湿地につながる家、ロードアイランドの港町と大学、交互に入れ替わる景色に、次第に、人と人とのむずびつきの難しさ、厳しさ、そして、癒えることのありえない、心の傷がのしかかります。

どうしてもこの世界のことを書かなければならなかった。優れた作家には、必ずそういう一冊があります。彼女はこれまで書き手として培ってきたすべてのものを費やして、この哀しい世界を描ききりました。哀しい世界、でも実はこれは、我々の生きている世界のこと。

それでいて、不思議なくらいこの作品には全編を通してカタルシスがあります。なぜだかわからない。もしかするとそれは、この世界を認識する格闘だから?

年末年始以降、あれやこれやで再び眠れぬ夜に陥っている中、雪に埋もれた福島の街並みを眺めながら、この世界のことを思います。

2017年1月9日月曜日

7階



学会の帰り、新幹線の中。ネットが使えず、手元にあるのはaura oneとPCだけ。となれば、本の話題を書いておきます。

なかなか、これはという本には巡り会わないもんだとぼやきつつも、それでも実は去年の末にはかなりいい線行った本と出会ってました。いや、良い線、ではなく、ひょっとして、この10年で読んだ最高の短編だったかもしれない。というのが「7階」。イタリアのブッツァーティという書きにくい名前の作者の手による作品。

何のことのない、ちょっとした病気で7階建てのごく普通の病院に入院した男性。ふと一階を見るとブラインドが下ろされている、というところからはじまります。たいした病気じゃないので、気楽に7階からの眺めを楽しんでたのですが、一つだけ、この病院の妙なルールを知らされます、それ自体は別にどうというものではないのですが、というお話。

絶品としか言いようがありません。ひんやりするような、ほとんど悪夢、現実との境がわからない、いつのまにか逃げることのできなくなっている恐怖。読み終えて、しばらく呆然として、気を取り直して、また読み返しました。これは地味に岩波文庫の「7人の使者・神を見た犬」、に入っています。表題にもならないというのが不思議でなりません。この作家が日本でそれほどもてはやされないのは、イタリアらしい、強いカトリック臭のせいと思え、表題作も、そういうトーンのために、信心のない私にはつまらない作品でした。

ブッツァーティの名前は、これを読む前に、長編「タタール人の砂漠」ではじめて知りました。これはどこか辺境の街で、国境の警備のために、街から離れて国境に設けられた山城に務めることになったドローゴ中尉の物語です。攻めてくるであろう、タタール人に備えるために、昼夜を問わず警備に当たる毎日のお話。

解説には、これは、何か価値あることが起きるかもしれないと待ち続ける、我々の人生そのもの、とあり、そういってしまえば、身もふたもないものですが、もっと純粋な、架空の街での物語です。語られる時間スケールがまるで対数で、くらくらします。いずれも脇巧という珍しい名前の訳者による優れた翻訳です。なかなかこういう作家には出会えません。